たとえば、従業員に対して、ある課題についてのレポートを提出するように求めたとしましょう。すると、欧米の従業員の多くは、財務なら財務、法務なら法務、技術なら技術、PRならPRなど、それぞれがもつ専門性を突き詰めて、非常に尖ったレポートを作成します。

 ただし、自分の得意分野についてはきわめて深い検討を行うのですが、その他の領域のことについてはほとんど検討しません。そのため、「財務的にはそうだろうが、それでは法務的には問題がある」といった激論を引き起こすことが多いのです。その意味で、バランス感覚には欠けているきらいがあると言っていいでしょう。

 一方、日本人の多くは、自分の得意分野だけではなく、隣接する領域のこともある程度カバーした内容のレポートを作成します。
 社内の他部署のことにも目配りをしたバランスのとれた内容になっているので、無用な軋轢を起こすことはありませんが、残念ながら、得意分野の掘り下げは弱い。いわば、裾野は広いけれど、標高は低い山のようなレポートなのです。

 そして、私が評価するのは欧米型のレポートです。
 理由はシンプルで、専門性を極めた尖ったレポート(事業提案)のほうが、明らかに「戦闘力」が高いからです。つまり、実際に事業化したときに、他社との競争において優位に立てる可能性が高いということです。

 私が思うに、この欧米人と日本人の特性の違いは、「ジョブ型」か「メンバーシップ型」かという雇用システムにあるとも言えますが、もっと言えば、それぞれの雇用システムの背景にある、歴史的に培われてきた「国民性」「企業文化」のようなものに根ざしているように思います。

 つまり、「個」の確立を尊重する欧米型の文化と、「和」を尊重する日本型の文化の違いの現れではないかと思うのです。それだけに、これは一朝一夕にできることではありませんが、一般的な日本人が「欧米型レポート」が書けるような「能力」と「メンタリティ」を育てていく必要があると、私は思っています。

「メンバーシップ型」と「ジョブ型」をハイブリッドさせる

 ここまで述べてきたように、私は、二つの「雇用型」のどちらか択一ではなく、「メンバーシップ型雇用」の要素をベースにしながら、そこに「ジョブ型雇用」の要素をハイブリッドさせていくのが適切ではないかというイメージをもっています。

 具体的な制度設計を論じる能力はありませんが、日本型文化に親和性があると思われる「メンバーシップ型雇用」のメリットを活かさない手はないでしょう。

 特に、現在行われている新卒一括採用を今後も続けていくならば、「メンバーシップ型雇用」を手放すことにはかなりのリスクが伴うと考えておいたほうがいい。それよりも、若いうちはさまざまな仕事を協働で進める体験をすることで、「メンバーシップ感覚」を身につけながら、それぞれに「適性」のある仕事を見つけ出し、その「専門性」をとことん磨き上げてもらうのが適切だと思うのです。

 そして、その後は、基本的に「ジョブ型雇用」に移行するわけですが、当初は、かなりの反発が伴うかもしれません。そこで、「メンバーシップ型雇用」を希望する者はそれを選択することができるようにしたり、「ジョブ型雇用」への移行に時間的猶予を与えるといった仕組みを開発できれば、社会的合意を得られる可能性があるのではないかという気がします。

(この記事は、『臆病な経営者こそ「最強」である。』の一部を抜粋・編集したものです)