「感謝される叱責」と「恨みを買う叱責」の違い

「これだけ真剣に自分のことを叱ってくれる上司は、これまで本当にいただろうかと思いました。ですから、まさに真剣勝負です。大変なのは、予測が下回ったときだけでなく、上回ったときも『現状を把握していない』と叱られるんです。緊張の連続です」(前出PRESIDENT)

 稲盛氏が社員を叱るのは、単に業績が悪いときだけではない。業績が予測より良かった場合でも、「現状を正しく把握していなかったのではないか」と厳しく問いただされることがある。

「利益が出ればそれで良い」という短絡的な考えではなく、「正しいことを徹底する」稲盛氏の誠実な価値観が根底にあるのだ。稲盛氏の指導は、利益よりも「何が正しいか」という視点からの価値判断を重視し、社員に「どんな結果でも正確に分析し理解する」姿勢を求めているのだ。

 理不尽に叱られれば、社員がモチベーションをものすごく落としてしまうことは、先の研究からも明らかだ。フェアで誠実な人間でなければ、叱られた方は恨みを深めるだけなのである。

 稲盛氏の厳しい叱責を通じ、社員は「会社のために何が正しいか」を真剣に考えるようになり、自らの行動に責任を持つ姿勢が育まれていく。誠実なリーダーの存在こそが、職場全体のモラルや士気を向上させ、組織全体としての成長が促されていると言える。