国内と海外で「分離」の可能性は?

 日本企業であるセブン&アイにとって、社会インフラとしての国内小売事業の強化が責務であることは明らかだ。同社経営陣も、そうした社会的責任の重さは十分に認識しているはずだ。

 近年のセブン&アイは、米国で大型買収を実現し、海外収益を大幅に増やした。世界売上高30兆円計画に関しても、海外で得た資金を再配分して国内の小売り事業を維持する方針は一貫している。

 ただ、同社が海外・国内の小売りビジネスを自己完結型にすることは、主要投資家の共感を得られないかもしれない。なぜなら、百貨店事業の失敗や、国内総合スーパー事業の収益性の停滞があるからだ。それらのリストラを巡り、現経営陣と「モノ言う株主」との利害対立が表面化した。主要株主の賛同を得られないまま、同社が米欧の小売り大手やIT企業と真正面から競争するのは容易ではないだろう。

 セブン&アイが海外企業に買収された場合、国内事業がリストラ対象になる恐れはある。地方のコンビニやスーパー、移動販売などがそうなったら、買い物ができなくなる消費者が増える可能性もある。それは、重要な社会インフラが棄損されることであり、わが国にとって無視できないデメリットだ。

 一つの可能性として、セブンが海外事業と国内事業の法人格を分離する選択肢が考えられる。海外事業は、各地の有力企業との業務・資本提携を進める方法だ。

 欧州では近年、EU加盟国間の連携より自国の事情を優先すべきだ、と主張する政治家が支持を集めている。米国では、民主党、共和党ともに日本製鉄によるUSスチール買収に反対姿勢だ。海外での買収よりも、緩やかな提携を目指した方が政治経済、事業環境の変化に対応しやすいとも言える。

 国内小売事業は、コア業種として国内の資本で事業を運営すべきではないだろうか。内外事業の分離・分社化などが検討の対象になる可能性は高いと考えられる。