国内事業の収益基盤を拡充せよ

 セブン&アイが国内事業の収益基盤を拡充するには、複数の選択肢が存在するだろう。国内の他社と連携して地方に無人店舗を設置したり、離島や山間部にはドローン配送体制を整備したり、などだ。

 ただ、いずれも相応のコストがかかる。必要な資金の一部は、地方自治体や政府が資金面から支援する必要が出てくるかもしれない。

 海外では、小売りは戦略産業であるとの考えに基づき、外資による買収を認めなかったケースもある。21年にクシュタールは、フランスの小売り大手カルフールに友好的買収を提案した。買収成立後は一定期間、雇用を維持すると確約した。

 それに対して、フランス政府は反対姿勢を貫いた。根底にあったのは、国民生活の安定を守る決意だろう。海外企業が自国の企業を買収した場合、社会的な責任より資本の効率性を優先し小売店舗のリストラに踏み切る恐れは排除しきれない。それは、社会インフラの毀損(きそん)につながる。安心、安定した生活環境の提供は、時に、資本の効率性よりも優先されることが必要だ。

 現地報道によると、米国の連邦取引委員会(FTC)は、クシュタールによる買収が、米小売業界における競争の公平性を棄損する恐れがあると懸念しているようだ。米国政府も、社会の安定に自国の小売業は国内資本で運営されることが重要だと考えているとみられる。

 世界全体で小売業を取り巻く環境は急速に変化している。セブン&アイは、海外事業では提携を進めて可能な限り資本の効率性を高める一方、国内では必要に応じて公的支援や規制を活用しつつ、国内資本で持続的なサービスの提供と成長を目指す――。現経営陣がこうした発想を十分に理解し、国内小売事業の経営基盤強化を目指す意義はあるはずだ。それこそ、同社がわが国企業としての社会的責任を果たすことにつながる。