マスクは「Whale(鯨)」なのか?
真相は闇の中だが…
このようにマスク氏は19年から継続して、自分の関係各所とあらゆる機会をとらえて、暗号通貨ブームを風刺するミームコインであったDOGEコインの価値を社会に認めさせる活動を行っています。
実は、マスク氏は仮想通貨の世界で「Whale(鯨)」と呼ばれるような、DOGEコインの大口保有者だとする説があります。この説は、DOGEコインの取引で損失を被った複数人の投資家らが、マスク氏に対して起こした集団訴訟で主張されているものです。
この裁判はマスク氏のSNS上の発言をめぐって、原告側が当初2580億ドル(約40兆円)の損害賠償を求めるものでした。しかし結果的に現在、DOGEコインの値上がりを受けてこの訴訟は争うことに意味がなくなり、控訴取り下げで11月に終了となっています。
この訴訟の中では、DOGEコインのウォレット(仮想通貨の保管、送金、決済などの管理ツールで財布や銀行口座に相当)の一つである「DH5ya」が、マスク氏の個人ウォレットであると主張されていました。原告がこのように主張する根拠は、例えばDH5yaの取引がマスク氏の誕生日と関係がある数字で行われている、などでした。
訴訟は終了したのでその真相は分かりません。しかし、筆者が最も重視すべきだと思う点は、明らかにマスク氏の言動の影響によって、19年には無価値に等しかったDOGEコインの価格が、直近の0.4ドル超まで200倍以上にも上昇した事実です。
ここから先は筆者の想像の域を出ませんが、DOGEコインまたは仮想通貨を通じてマスク氏が狙っていることは、行政や連邦銀行の権力や権限を、ミームコインを通じて打ち壊し丸裸にすることではないでしょうか。
マスク氏をはじめとする一部のIT起業家たちは、「サイバー・リバタリアン」(またはテクノ・リバタリアン)と呼ばれることがあります。マスク氏以外では、ハイテク投資家のピーター・ティール氏などもそう呼ばれています。
彼らは、既存の政府を徹底的に軽蔑し、自由な権利を重視します。全ての物事が同意や契約を通じて行われる新しいタイプの政治体制、「ネットワーク国家」に移行すべきなどと主張しています。
本稿では、それが良いか悪いかは横に置きます。ただ、こうした観点で考えてみると、マスク氏の言動は単なる政商としての活動やマネーゲームの域を超えた、ある種の革命運動のようなものかもしれません。
そして、マスク氏やサイバー・リバタリアンの動きは、海の向こうの話で終わるものでもありません。日本政府や日本企業もこうした動向を注視していくことが、非常に重要になると感じます。