医療費が高い中国
「4・2・1」一人っ子世代が直面する介護危機
冒頭で紹介した公報によると、現在、中国の要介護高齢者は4000万人に達し、4000万の家庭が介護問題に直面しているという。介護者の内訳は、配偶者が45.5%、子どもが47.6%で、施設など家族以外による介護は3.4%しかいない。
中国は社会保障制度が整備されておらず、セーフティネットが皆無に近い。施設への入居費や医療費は高額で、まとまったお金を用意するためには家族の援助が不可欠である。そのため「一人失能、全家失衡」という言葉があるほどだ。一人が病気や要介護になったら、家庭そのものが崩れるという意味である。
胡教授の話に一番反応しているのは、約2億人いる「一人っ子」たちだ。1979年から36年間続いた一人っ子政策により、現在の高齢者の多くは「一人っ子の親」である。約40年前に生まれた一人っ子たちは既に中年期を迎え、自身も親となっている。1組の夫婦に4人の親と1人の子という「4・2・1」の家族構造の中で、介護と子育て、仕事の板挟みとなっている。彼らは自身を「サンドイッチ人間」と呼ぶ。
SNSでは「胡教授は大学教授で、兄弟がおり、パートを雇う経済力がある。我々一人っ子は誰にも相談できず、すべてを一人で抱え込むしかない」といった声が多く見られた。
中国のあちこちで、中年になった
一人っ子たちが親の介護に悩んでいる
地方都市に住む45歳の孫さんは、中学校教員として働きながら、アルツハイマーを患う母親の介護に奔走している。母親は何度も家出して行方不明になり、警察に失踪届を出した。ガスの消し忘れによる火災の危険も経験した。母の介護のため一時休職し、現在は妻一人の収入で家計を支えながら子育ても行っている。「今後、妻の親も要介護となったら、どう対応したらいいのか。考えると不安で仕方がない」と孫さんは語る。
また先日、筆者は中国に住む女性の友人から相談を受けた。彼女は一人っ子で、両親はすでに80代だ。近所に住んでいるが、一カ月前に父親が肺炎を患って入院、さらに母親が自宅で転んで骨折した。そこから、病院と実家の間を奔走する日々が始まった。中国の病院は日本のような24時間看護体制ではないので、家族による付き添いか、有料の「護工」(介護スタッフ)を雇う必要がある。また、病院は一定期間を過ぎると退院を促す傾向にある。