遺産相続は家族関係や財産、それぞれの思いなど、いろいろな要素が絡み合うもの。事前に対策をしておかないと揉め事が起きたり、思わぬトラブルに巻き込まれたりすることも多い。ここでは、兄弟間に亀裂が入ってしまった相続問題の一例と対策を紹介する。※本稿は、澤井修司『あるある!田舎相続』(日刊現代)の一部を抜粋・編集したものです。
家業を継ぐ弟に兄が言い放った
「俺の取り分少ないよな?」
地域の人たちに愛されている「居酒屋さんかく」というお店がありました。カウンター8席と小上がり4卓の小さな居酒屋で、店主の一郎は早くに妻を亡くし、ワンオペで細々と続けていましたが、毎晩、常連さんたちで賑わっていました。
長男の欲夫は「田舎で居酒屋なんて未来がない」と、専門学校卒業後は都内のIT企業でシステムエンジニアとして働いていました。次男の正夫は父親の姿を見ていて、「飲食店っていいな」と感じており、高校卒業後に都内の高級料亭で修行したあと、地元に戻ってさんかくで働き始めました。いずれはさんかくを継ぐためです。
もともと地元では人気があったお店ですが、「さすが、正夫の料理は東京で修行しただけあってうまい!」と評判を呼び、さらにお客さんが増えて繁盛店になりました。
それが、父の一郎が亡くなり、欲夫と正夫が財産を相続することになりました。さんかくは一郎の個人事業で、自宅兼店舗の評価額は500万円、預貯金が100万円でした。
「さんかくは俺が継ぐから、預貯金は兄貴が全部相続していいよ」
正夫は、そう兄の欲夫に話しました。そもそもそれほど大きな財産があるわけではありません。正夫はこれですんなり相続の話し合いが終わると思っていました。
ところが……。
「あのさ、さんかくの価値は500万円だろ。預貯金が100万だと、俺の取り分、200万円少ないよな?」
欲夫は正夫の提案に納得しなかったのです。正夫にとっては予想外の事態でした。
さんかくは流行っているといっても、1店舗ではそれほど大きな儲けがあるわけではありません。しかも「安くておいしい」を売りにしているので、ほぼ原価で提供しているメニューもあるくらい、利幅も小さいのです。