「人生を一変させる劇薬」とも言われるアドラー心理学をわかりやすく解説し、ついに国内300万部を突破した『嫌われる勇気』。「課題の分離」「トラウマの否定」「承認欲求の否定」などの教えは、多くの読者に衝撃を与え、「人類全員に読んでほしい1冊」「人間関係に悩んでいたけど救われた」との声も寄せられています。
今回は、紀伊國屋書店新宿本店で開催された「『嫌われる勇気』国内300万部突破記念トークイベント」より、本書の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏が、読者の皆様から寄せられた様々な「人生の悩み」に回答したQ&Aコーナーの模様をお届けします。(構成/ダイヤモンド社コンテンツビジネス部)

「人類全員に読んでほしい1冊」との声も!世界1200万部・国内300万部を突破した、あなたの承認欲求を否定する「衝撃の心理学本」とは?Photo:Adobe Stock

100年後に残る本は、100年前に存在していても面白いはず

Q. 『嫌われる勇気』は2013年に発売されましたが、いまだからこそ付け加えたいことや、内容面で変更したい点はありますか?(40代・女性)

古賀史健 本書の読者の方々はおわかりのように、哲人に議論を挑む青年のテンションがとてもハイですよね。「なぜあんな話しぶりにしたのですか?」とよく聞かれますが、あれは僕が大好きな、戦前の古い日本語で訳されたドストエフスキーのニュアンスを出しています。

 というのも、「100年読み継がれる本」を本気で目指す中で、僕がたどり着いた仮説が、「100年後に残る本は、100年前に存在していても価値があるはずだ」というものだったからです。つまり、100年前の読者が面白いと感じる内容ならば、100年後の読者も面白く読んでくれるだろうと考えました。

 そのため、本書では、SNSや受験、就職活動のような現代的なテーマは一切扱っていません。100年前でも問題なく通用するような舞台設定、青年の悩み、そして哲人の答えを用意したかったからです。その意味で、発売から11年経ったいまでも、大きく変更したい点はありません。

 ただ、2022年に起きたロシアのウクライナ侵攻という出来事が、僕にとってものすごく衝撃的だったんですね。信じられなかったし、ヨーロッパの歴史、特に第二次世界大戦後の東欧史を勉強し直す契機になりました。

 その中で再認識したのが、ユダヤ人だったアドラーが、ナチスから逃れるようにしてアメリカに渡ったという経緯や、「アドラー心理学は終わった」と一度は言われたほど、ナチスの迫害によって数多くのユダヤ系の研究者が亡くなったという事実です。

 本書を執筆していた当時、そうした知識はもちろん持っていましたし、できるかぎり本の内容に反映させたつもりです。しかし、ウクライナやガザの現状を踏まえると、反ユダヤの風潮が色濃い時代のヨーロッパを生きたアドラーが、それでも自分の思想や心理学を守り続けた「強さ」について、何か付け加えて書けたらいいなと思うことはあります。

アドラーの思想の奥行き・現代性

岸見一郎 いま読み返しても、『嫌われる勇気』の内容は全く古びていません。私自身はこの11年間で思想的な変化が色々ありましたが、本書の中に根本的に改めなければいけない箇所は1つもないと言っていいくらいです。

 アドラーは「時代を1世紀先駆けている」と言われるほど、人間社会の行く先を予見するようなことを書いています。特に、戦争に反対だということは明言しています。

 また、もしもアドラーが現代を生きていたら、「人間はみな対等な関係だ」というメッセージを積極的に発信していたと思います。たとえば、アドラー自身は性的指向や性自認の話に触れていませんが、彼の思想はそうしたテーマも射程に入るほど豊かな内容を持っています。

 今後は、アドラーのそのような側面を、いまの時代を生きる読者のためにもっと強調して伝えていくことが、私の「使命」だと考えています。

(本稿は、『嫌われる勇気』国内300万部突破記念イベントのダイジェスト記事です)