高齢になった親に対して、相続の話は切り出しにくい。だが、富裕層の家族たちは、相続準備の一環として高齢になった親へ高級老人ホームへの入居を勧めている。ノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』では、様々な経緯で高級老人ホームに入居した富裕層の晩年の暮らしの実態を徹底取材している。では、高級老人ホームへの入居を勧める以外にやっておくべき相続対策などはあるのだろうか。本稿では、相続問題に詳しいライター・坂田拓也氏に、年末年始の帰省に合わせて絶対に知っておきたい相続の意外な“抜け道”についてご寄稿いただいた。(取材・文:坂田拓也、構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

【実は“孫”がカギ?】生前贈与の「意外な抜け道」、メリット&デメリットを相続専門税理士が解説孫へのお年玉はいくらにしただろうか?(Photo: Adobe Stock)

相続の話は「お正月」に

 親子で顔を合わせることになることも多い正月三が日。実は一年の始めこそ相続について話し合ういい機会だ。

 新宿総合会計事務所で相続専門チームを率いる税理士の杉江延雄氏はこう説明する。

「相続について考えると、節税対策ばかり気にしてしまいます。しかしそれは、相続税を計算して納税に必要な資金を確認し、相続時に家族が揉めないように対処できた後で、最後に考えるべきです。

 節税策の代表は生前贈与ですが、親にも老後資金が必要ですし、老人ホームへ入る時などは大きな費用が発生する時もあります。納税資金がじゅうぶんにあるなら、そもそも節税策をとる必要があるかどうか慎重に考えるべきです」

 生前贈与については制度変更に留意する必要がある。

 生前贈与は財産を受け取った受贈者に贈与税が課される。1人につき年110万円まで非課税ということも知られるようになり、生前贈与の利用者は増えてきた。

 一方、これまでは被相続人の死亡日から過去3年間の贈与が相続税の課税対象となっていたが、2024年の制度改正でそれが過去7年間に延長された。

 たとえば、親から子供2人に各110万円の生前贈与をコツコツ続けても、親が亡くなった日から7年前までに贈与した1540万円が相続財産として課税されるのだ(期間は段階的に延長され、7年適用は2031年1月以降)。

 杉江税理士はこう続ける。

「生前贈与は早い時期から実行する必要が出てきました。非課税となる年110万円ばかり目立ちますが、贈与税を支払ってでも贈与する金額を増やすことを考えるべきです」

 非課税の110万円の贈与をコツコツ続けても、7年以内に親が亡くなれば課税対象になるため、より早く生前贈与を実行する必要が出てきたのだ。

 生前贈与する全体額、贈与対象者の数等を考慮し、贈与する額を検討すべきという。

 例えば1人に年310万円を贈与した時は贈与税が20万円かかるが、その分だけ財産を早く、多く移転できる。