寿老神と毘沙門天から布袋尊へ

東寺九条通から望む東寺(南区)の五重塔

「松ヶ崎」駅からは地下鉄烏丸線で五つめの「丸太町」駅へ。東へ12分ほど歩くと、西国三十三所の第十九番札所でもあり、「延寿福楽」の寿老神をご本尊とする行願寺(中京区)に着きます。平安京以前から洛中の地にあった“革堂”の名前の方が知られているかもしれません。開山の行円上人は、狩りで射止めた雌鹿が子鹿を身ごもっていたのに気づいて殺生を悔いて仏門に入り、供養のため鹿の革をまとっていたことから「皮聖」とも称されました。

 この寿老神は、天に昇った中国の老子が仙人の姿になったという逸話に基づく神様です。人々の災難や困難を払うためのうちわを手にすることから、不老長寿はもとより、福財、子宝、諸病平癒といった功徳も授けてくださるそうです。

 門前の寺町通は、和菓子や和文具の老舗、ギャラリー、骨董(こっとう)品店などが軒を連ねる大人好みのストリート。一保堂茶舗の京都本店もあります。併設の喫茶室では和の風情あふれる空間で香り高い日本茶がいただけますので、一服してみてはいかがでしょうか。

 次は、地下鉄烏丸線か市バスで「京都」駅まで行き、近鉄京都線に乗り換えて一駅、もしくは市バスに乗って、「七福即生」の毘沙門天をおまつりする東寺(教王護国寺)へ。お寺の概要については第36回で触れていますのでそちらをご覧ください。毘沙門天は仏教を守る四天王の多聞天として、都の北方も守護する役割をお持ちの神様です。弘法大師空海が唐の国で感得されたものと伝わる兜跋(とばつ)毘沙門天像は、国宝のため宝物館に安置されており、御影堂(国宝)南側の毘沙門堂にはその模刻像がおまつりされています。財運の神でもあり、学業成就や安産をはじめ十種の福を授けてくれるとして信仰を集めています。

 最後は、天王殿に「諸縁吉祥」の布袋尊をおまつりする黄檗山萬福寺(宇治市)で結願しましょう。『源氏物語』の舞台だった宇治川付近から北部に位置します。JR奈良線で「京都」から「黄檗」駅に行くか、近鉄京都線「東寺」駅から「近鉄丹波橋」駅へ向かい、歩いて京阪本線「丹波橋」駅へ。「中書島」駅で京阪宇治線に乗り換えて「黄檗」駅下車、徒歩5分です。

 萬福寺は、スイカやインゲン豆などを日本にもたらした隠元禅師が開いた黄檗宗の大本山。三門、天王殿、大雄宝殿(だいおうほうでん)、法堂が一直線に建てられた伽藍(がらん)配置が特徴的で、卍をデザインした勾欄(こうらん)や龍の背の鱗(うろこ)を意匠化したひし形の敷石など、境内は異国風な空気に満ちています。軒下に吊(つ)り下がった大きな木製の魚が目に留まりますが、これを“たい焼き”と言うなかれ。開梆(かいぱん)という修行において時を知らせる法器であり、萬福寺のシンボル的な存在となっているからです。

 弥勒菩薩の化身とも称される布袋尊は、七福神の中で唯一実在する人物が由来となっています。日本では平安時代にあたる後梁時代の中国のお坊さんがそのモデルとか。萬福寺の布袋尊はまばゆいばかりの黄金色に輝いて、なんとも福々しいお姿。江戸初期の歴史ある傑作ながら、どこかの会社の部長さんで似た方がいらっしゃったような……? ついそんな思いをいだいてしまう、現代的な親しみやすさをたたえています。

 萬福寺といえば、24年10月、法堂・大雄宝殿・天王殿の3棟が国宝に指定されたことがニュースになった、京都でいま最も旬のお寺といえますので、七福神めぐりの締めくくりにぴったり。参拝時間は多めに確保して、じっくりとご滞在ください。

 ここまでお読みいただいて感じられたかもしれませんが、公共交通機関と徒歩で都七福神を一日で巡拝するには、朝早くスタートして駆け足で移動する必要があります。それぞれに見どころの多い社寺ばかりですので、日にちを分けて巡ることをおすすめします、

 その点、1月31日までならホテル特製松花堂弁当が付いた京都定期観光バス「おこしバス七福神ツアー」もありますので、足腰に不安のある方やご高齢の方と一緒に巡る場合にはこちらを利用するのもいいでしょう。

 では、心を落ち着けて七福神に手を合わせ、幸多き一年を願いましょう!