【教養としての世界史】ヨーロッパで「国境」ができた“超意外な理由”
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。
近世ヨーロッパで「国境」ができた“超意外な理由”
中世後期より、ヨーロッパでは火薬の使用が広まり始めました。15世紀末期までに、火薬を用いた大砲や小銃が登場し、これが徐々に各地に普及します。この火砲の普及を「軍事革命」と言い、これにより封建領主を主力としてきた従来の軍事力は衰退を余儀なくされます。さて、ここで問題です。
“火砲の最大の利点とは何か?”
正解は、「比較的短時間のうちに扱いを習得できる」ことです。その威力もさることながら、火砲とりわけ小銃(火縄銃)の最大の利点は、扱いの習得に時間を要さない点に集約されます。
そのため、小銃を充実させると、それまでにない規模の大軍を、比較的短期間のうちに組織することができるのです。
イタリア戦争と前後して、ヨーロッパ諸国や領主の一部は火砲の充実化を進め、これによりヨーロッパ諸国は軍事国家へと次々に変貌を遂げました。しかし、大規模な軍隊は必然的に維持費が嵩かさみます。加えて、火砲そのものが高価ということもあり、大規模な軍隊を支えるために、確固とした財源をつくる必要が生じます。
このため、ヨーロッパでは官僚制=徴税機構の整備が進みます。ここでの「官僚」とは、徴税を担う役人のことです。とはいえ、ここで問題が生じます。
こうして「国境」ができた
中世の封建制では、領主は何人もの君主と主従契約を交わすことができました。これにより、官僚制を確立したい諸国では、徴税できる範囲の画定を急ぎます。これにより出現したのが、「国境」です。従来は、各地の領主が統治する領域を大まかに把握するに過ぎませんでしたが、近世では明確な国境線が引かれるようになります。
官僚制を確立し、これにより軍事強国へと飛躍した諸国は、列強と呼ばれヨーロッパの国際体制を担う大国になります。
(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の一部抜粋・編集を行ったものです)