【大人の教養】メソポタミアで文明が発達した“超合理的な理由”
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。
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文明と都市はどう発展するのか?
世界史上で最古の文明が生じた地域の一つがオリエントと呼ばれる地域です。さて、ここでいきなりですが、「オリエント」とはどこだか説明できますか?
Orient(英)の語源はラテン語のoriorという「上がる、昇る」を意味する動詞にあり、すなわち「太陽の昇る地(=東方)」を指します。これは大まかにインダス川以西の地域を指し、今日では「中東(中近東)」ないし「西アジア」と呼ばれる地域にあたります。下図を見てください。
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文明発達のメカニズムと合理性
さて、オリエント、すなわち中東といえば、砂漠の広がる乾燥した気候ですね。乾燥帯に属するこの地域は、年間の降水量が少ないのが特徴です。このため水資源の豊かな地域に人口が自然と集中し、文明の形成が促されたのです。
オリエントには3本の大河があり、このうちの2本であるティグリス川とユーフラテス川は、「メソポタミア(「川に挟まれた地」の意)」を形成します。この、メソポタミア、シリア、パレスティナの一帯は「肥沃な三日月地帯」と総称されます。もう1本は「エジプト」のナイル川であり、上流のエチオピア高原で雨期に降る雨によりナイル川が増水し、氾濫を起こします。
このナイル川の氾濫は、上流の栄養に富んだ土を下流まで運ぶため、エジプトは古くから高い農業生産量を誇ります。
いずれの地域も、大河から水を引く運河など、治水による灌漑農業のための大規模な土木工事を必要とし、集村化や強力な指導者が出現します。さらに、メソポタミアとエジプトはいずれもほぼ決まった時期に氾濫が生じるため、占星術による暦の計測が発達します。
これにより、「占星術→天のメッセージを読み取る→神の意思を直接に授かる」という理屈から、占星術に長けた集団が「神官団」を形成するようになります。その頂点に立ったのが「王」だったのです。このように、神の権威により王権を正当化した政治を「神権政治」と呼びます。
人口の集中とともに近隣の部族(血縁関係を中心とした氏族が複数集まり、共通の文化的背景を有する集団)が集まることで「ムラ」を形成し、さらにそのムラが集合することで「都市」が形成されます。この都市こそ、世界史上最初の国家であり、これら最小単位の国家は「都市国家」と呼ばれます。
(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の一部抜粋・編集を行ったものです)