【大人の教養】イギリスで産業革命が始まった「残酷な理由」とは?
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。
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なぜイギリスで産業革命が始まったのか?
産業革命、あるいは工業化が世界で最初に始まったのが、18世紀半ばのイギリスでした(ちょうど七年戦争のさなかです)。イギリスで最初に産業革命が生じた要因は様々です。主なものに次の2つがあげられます。
(1)三角貿易の展開
大西洋での三角貿易の展開により、国富(国家の富・経済力)が蓄積され、イギリスでは所得の高い層が厚みを増します。この時期のイギリスは、スペイン継承戦争によりスペイン領のラテンアメリカへ黒人奴隷をもたらす専売契約(アシエント)も結んでおり(とはいえ予想以上の売り上げを達成することはできませんでしたが)、所得の高い層が多いことで、設備投資などが進みやすく、技術革新につながっていきます(下図参照)。
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(2)農業革命(ノーフォーク農法の普及)
農業と牧畜を同時に行うノーフォーク農法の普及により、より広い土地を必要とした地主による第2次囲い込み(強制的に中小農民から共同利用の土地を接収)が進みます。この第2次囲い込みは合法とされ、これにより、
● 働く土地を失った中小農民
→ 地主のもとで雇用=農村労働者
● 食糧増産による人口増加
→ 余剰人口は仕事を求め都市に進出=都市(工場)労働者
このように「労働者」あるいは「労働階級」が出現します。労働者の登場により、工場での生産がより促されることになります。
(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の一部抜粋・編集を行ったものです)