「イヤな『あの人』を脳から消す方法があります」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

イヤな「あの人」を脳から消す方法・ベスト1Photo: Adobe Stock

イヤな「あの人」のことが頭から離れない

 仕事をしていると、どうしても苦手な人はあらわれるものです。
 あなたを見下す上司、いつもピリピリしている同僚、陰口を言う部下…。

「せめて帰って家でゆっくりしているときくらい、その人のことを考えずにいられたら」と思ったことはありませんか?

 実は、そんなイヤな「あの人」のことが頭から離れないのは、あなたの心の弱さのせいではないかもしれません。

 私たちの脳は、ネガティブな経験ほど強く記憶するよう進化してきました。危険を忘れないことで、生存するための大事な機能の一部だったのです。

 でも現代では、この機能のせいでストレスが重なり積もってしまい、逆効果になることも少なくありません。

 脳科学の世界では、人間関係のストレスは脳にとって私たちが感じるような「痛み」と同じように処理され、社会的な拒絶感や孤独などによって、物理的な痛みを感じる脳領域が活性化させることもわかっています。

 だからこそ、心の傷も本当の傷のように痛むのです

 ですが、そんな脳には私たちのケガや傷が自然に治っていくように「可塑性」という機能があり、そんな便利な機能によってイヤな人のことを一時的にも、私たちの意識から取り除くことができるのです。

 今日はそんな「可塑性」というものを上手く使って、苦手な「あの人」を脳から吐き出す方法について共有したいと思います。

「不快な人間関係」が脳に与える影響

 ネガティブな人間関係がもたらすストレスの影響は、想像以上に深刻です。
 人間は継続的なストレスにさらされると、記憶や感情の制御のための海馬と呼ばれる脳領域の体積が減少したり、意思決定や感情調整を司る前頭前皮質の機能も低下すると言われます。

 つまり、ストレスがたまりすぎると、どれほど精神的にタフと言われている人も、精神的に動揺しやすくなったり、さまざまなストレスに敏感になりすぎてしまうのです。

 そんな過剰なストレスによって人間の脳は深く傷ついてしまい、実際に会っていない時でさえ、その人とのネガティブなやり取りが残ってしまい、何度も頭の中で再生してしまい、本来なら自分のために使うべき脳のリソースが奪われるようになってしまいます。

 自分にとってイヤな「あの人」の、イヤな記憶にもかかわらず、ネガティブな情報が脳内でループし続けるのは、このためとも考えられているのです。

脳の可塑性を活かした「あの人」を消す技術

 では、どうすればこのような不快な記憶や感情から脳を解放できるのでしょうか?
 幸いなことに、私たちの脳には「可塑性」という素晴らしい特性があります。これは新しい経験や思考パターンによって、脳の神経回路を意図的に「再構築」する能力のことです。

 そんな可塑性は色々なアプローチで、自分の力で意識的に整えることもできると考えられています。いくつも例があるので、まずはあなたが取り入れやすそうなものを選んでみてください。

・「マインドフルネス」を意識する
 今この瞬間に意識を集中させることで、イヤな人との不快な記憶や、未来への不安から一時的に脳を解放できます。

 呼吸に意識を向ける簡単な瞑想を1日5分からでも効果的と言われていますので、静かな場所で深呼吸をしながら、今この瞬間の感覚に集中してみる練習をしてみましょう。

・状況を違う視点から見直す「メタ認知」
 例えば「あの人は私を見下している」という解釈を「あの人は自分に自信がないのかもしれない」と捉え直すことで、感情的な負担が軽減されることがあります。

 これはポジティブ思考になれ、ということではなく、状況を多角的に見る訓練を行うということです。

・不快なときこそ「意識」の切り替え
 不快で頭がごちゃごちゃしているときこそ、趣味に没頭する、運動をする、友人と話すなど、ポジティブな活動に意識を切り替えることで、脳内の否定的なループを断ち切るといったシステムが組みあがるとされています。

 これは「気晴らし」ではなく、脳の注意回路を意図的に切り替えることで、習慣化して生きやすくするための処世術にもなってくれます。

・心に「壁」を作ってみる
 心の壁というとネガティブなイメージがあるかもしれませんが、あえて心に壁を作ることをイメージすることで、ネガティブな影響を与える人との接触を最小限に抑え、自分の心理的安全を守ることができたりします。そんな境界線を意識することで心の負担が減り、生きやすくなったりするでしょう。

 また、このほかにも信頼できる友人や家族、または専門家に話を聞いてもらうことで、感情的な負担が軽減され、客観的な視点を得ることもできたりします。

 これらの例も、人によって好ましいと思うこと、好き嫌いがあると思いますので、取り入れやすいことからやってみるのもひとつです。

「脳から消す」技術でストレスをコントロールする

 最後に強調したいのは、「脳から消す」技術の真の価値です
 この技術を身につけることで、あなたはストレスの「オン・オフ」を自在に切り替えられるようになります。

 神経可塑性についての研究によれば、約6~8週間の継続的な実践で、脳内に新たな神経回路が形成され始めるとも言われています。

 そんな「消す」能力は、自律神経をコントロールするための強力なツールになります。
 必要なときには「あの人」のことを考え、対処法を練ることもできますが、休息が必要なときには意識的に「消す」ことで、心と体をリラックスさせ、回復モードに導くことができるのです。

 これは単なるストレス回避ではなく、脳の機能を最大限に活用するスキルです。

 ちょうど筋トレで筋肉を鍛えるように、この「消す」技術も繰り返し練習することで強化されます。
 小さな成功体験を積み重ねていくことで、徐々に「あの人」に振り回される時間を減らし、自分らしい生き方を取り戻すことができるでしょう。

 不快な人間関係からの解放は、一朝一夕に実現するものではありません。

 しかし、脳の仕組みを理解し、この「消す技術」を継続的に実践することで、心の平穏を取り戻すことが可能です

 頭の中からあの人を「消す」という能力を意識して身につけて、「あの人」に支配されない生きやすい人生を選択していけるようになりましょう。

(本稿は、頭んなか「メンヘラなとき」があります。の著者・精神科医いっちー氏が書き下ろしたものです。)

精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。