メタ認知が機能するように習慣づけるには?

 学校時代から勉強のできる子は、こうしたメタ認知がうまく機能していることが実証されているが、仕事も同じである。自分は、どんなことはうまくできるようになっているか、どんなことがまだ十分にできるようになっていないかを把握できれば、強みを生かす仕事のやり方を工夫したり、弱点を補強して仕事力を高めたりすることができる。

 先の事例の人物に対しては、このようなメタ認知を促す教育的働きかけが必要といえる。例えば、個別面接の場を設け、日頃の仕事ぶりを振り返って、気づいたことを話してもらうのもいいだろう。

 例を挙げると、自分の仕事のやり方に関して、どんな点はうまくできていると思うか。人から評価してもらえたことは何かあるか。どんな点はまだうまくできていないと思うか。人からどんなことを注意されたことがあるか。自分にはどんな長所があると思うか。自分にはどんな短所があると思うか……こうした質問をして、それぞれについてじっくり振り返って考えてもらう。それによって何らかの気づきが得られるはずだ。

榎本博明『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)榎本博明『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)

 まだうまくできていない点についての気づきが得られたら、どのようなことに注意すべきか、どんなスキルを身につける必要があるか、どんな能力を開発していく必要があるかを考えてもらう。

 自分の長所に関する気づきが得られたら、その強みを生かすにはどんな仕事の仕方を心がけたらよいかを考えてもらう。自分の短所に関する気づきが得られたら、そこをカバーするにはどんなことを心がけるべきかを考えてもらう。

 このような面接を1回行ったところで、急に改善することはあまり期待できない。自分の仕事ぶりを振り返る心の習慣を身につけてもらうには、このような面接を定期的に行っていく必要がある。月に1回でも、季節に1回でも、そうした場を経験することにより、自分を振り返るようになり、仕事の場でも自然にメタ認知が働くようになっていくはずである。