「子どもが感情的になり、言うことを聞かない」「他の子と比べて、うちの子が遅れていないか心配」「褒美をつい与えてしまう」など、小学校6年間は、良くも悪くも親の影響を受ける最も多感な時期。自分で考えて学ぶ子は、どのような生活環境にあるのか。「指導実績」×「心理学」×「ベネッセのデータ」でわかった最高の教育を「声かけ」というシンプルな方法でお伝えします。誰でも一度は感じたことのある子育ての悩みを、簡単に解決するには「声かけ」を変えることです。『自分で考えて学ぶ子に育つ子育ての正解』より、「ほめ方」「しかり方」よりももっと大事な「声かけ」で、「子育てあるある」に対応したノウハウをお伝えします。

「結果」よりも「過程」を評価する
「うちの子は褒美を与えないとやりません。与えないほうがよいことはわかっているのですが……」と、親の悩みをよく聞きます。子どもは褒美があると喜びますが、褒美がなくても頑張れる子にしたいものです。
「うちの子は褒美を与えないと頑張れない」「ちゃんとやったら、ゲームしていいよと言ってしまう」――多くの親がよくないと思っているのに、ついついやってしまっていることです。
「テストの点がよかったら何か買ってあげる」
「上手に発表できたら、おいしいものをあげる」
子どもからしたら、頑張る理由ができるのでモチベーションが上がりますが、褒美を日常的に与えてしまうと、長続きしません。
「何かをしたら、褒美を与えて、行動への意欲を高めること」を、心理学では「外発的動機づけ」といいます。それに対し、「楽しい」「興味がある」「やりたい」などの内から湧き出るもので意欲を高めることを、「内発的動機づけ」といいます。
褒美がなくても何でもやる子に育てたい。誰もがそう思っているのではないでしょうか。大切なことは、結果よりも過程を評価することです。テストで100点をとったら、
「100点とれてよかったね! さすがだね!」
と褒めるのではなく、
「よく頑張ったね。どんな工夫をしたの?」
と聞きます。過程を評価することで、「自分なりの方法が認められた」「また、新しい工夫を考えてみよう」など、自発的な頑張りにつながります。結果が出たと言って何かを買ってあげたり、褒美をあげたりするのとは違います。何かをもらえるからやる、何ももらえなかったらやらない子に育ってしまうからです。
ただ、何かを与えなくても自ら進んでやれる子に育てたいのに、それができなくて、褒美を与えてしまう家庭が大半です。
外発的動機づけを上手に使う
ちなみに、外発的動機づけは「褒美」だけではありません。ベネッセ教育総合研究所の調査では、「先生や親にしかられたくないから」のような外発的動機で勉強する子が増えています。じつは、叱責なども外発的動機づけになるのです。
「褒美もダメ。叱ってもダメ。どうすればいいの?」と混乱させたいわけではありません。内発的動機づけを大事にしながら、外発的動機づけを上手に使うというのが私の考えです。
褒美なら、子どもだけが喜ぶものではなく、きょうだいが喜べるものや、家族全員が喜べるものにします。「みんなで遊べるおもちゃ」や「家族でご飯に行く」などです。
ひとりだけが幸せになる褒美による頑張りは、長続きしません。みんなが喜べる褒美を与えることで、人のために頑張れる子に育っていきます。
この考えは、教員であるときに保護者の方々から学び、私の教育方針にも大きく影響しています。大人になってから素晴らしい活躍をしている子たちには、外発的動機づけを上手に与えられているように感じます。

内発的動機づけで頑張れる子に育てるために
心理学者アルバート・バンデューラの「社会的学習理論」では、自己効力感が重要な役割を果たしていると述べています。子どもが親の反応を観察し、自分の行動が肯定的に受け入れられていると感じることで、自己効力感が高まり、内発的動機づけが促進されていきます。
「何かができた」という結果は大切です。しかし、その結果がどうであれ、過程を評価しましょう。我が子はそのままで素晴らしい。そう思いながら接していくことで、子どもの可能性は無限に広がっていくのです。
(本原稿は、『自分で考えて学ぶ子に育つ声かけの正解』より一部抜粋、再編集したものです)