充電時間を短くするためには急速充電器が出せる電圧を高く、電流をより大きくする必要がある。が、充電器を高性能化してもクルマ側が高電圧、大電流を受け入れられなければ意味がない。

 高電圧化は、乾電池なら1.5Vを2個直列つなぎすれば3Vになるように、バッテリーセルの直列つなぎ数を増やなければならず、大電流は乾電池の単3を単1に置き換えるようにセル1個あたりの受け入れ能力を増やさなければならない。いずれもバッテリー搭載量が多いほうが有利だ。

日産「リーフ」→ヒョンデ「アイオニック5」
→BYD「ドルフィン」、電池が進化!

 BYDに話を戻すと、ドルフィンのLFPは、その固定観念を覆した。LFPが、今主流の三元系リチウムイオン電池(NCMまたはNMC、マンガン、コバルト、ニッケルの合金を正極に使う)より高性能というわけではない。ドルフィンが30分充電4回で鹿児島に辿り着けたのは、1回あたりの投入電力量が最低38.2kWh、最高39.6kWhと非常に多かったからだが、それは定格電圧390.4Vに対して420Vを超える高電圧を充電開始直後、空に近い時点からドーンとかけられたことによる。

 前述のNCMバッテリーの充電制御は、LFPよりずっとデリケートだ。充電率が低い時には低い電圧をかけ、徐々に電圧を高めていく。最終的にはバッテリーパックの定格電圧の1割増しくらいの電圧になるが、それよりずっと手前で今度は電流を落としていく。

 充電器出力は電圧と電流のかけ算なので、最初から高電圧をかけられたほうが当然有利だ。結果、ドルフィン長距離版は容量60kWh以下のクラスではダントツ、さらに大容量バッテリーを積む上級BEVと互角の充電量を確保できた。ラフな充電制御にも耐えるLFPの特性が、BEVに合うことを痛感した。

 続いて、ドルフィンの標準型で晩秋の東北地方を1600kmほど試乗した。長距離型に比べると充電受け入れ性能の絶対値では負けるが、容量44.9kWh、総電圧332.8Vという低スペックの割には健闘した。長距離型と同様、最初から定格電圧より高い電圧をかけても平気な、LFPの特質が生きていた。