「絶対優位」「比較優位」を
キャリアで考えてみる

●ITコンサルタントAさんの例

 では、これをビジネスや個人キャリアに当てはめてみましょう。ここでは、ITコンサルタントAさんの例を見てみます。

 Aさんは前職(ITコンサルタント業)で多数のデータ分析プロジェクトをリードし、論理的プレゼンテーションと可視化ツール活用において高い評価を得ていました。自分自身としてももっとも得意な領域です。

 転職した会社(消費財の会社)で最初の社内ミーティングを迎えたAさんは、自己紹介を兼ねて大胆にプレゼンを行い、自分の得意とする分析・提案スキルをアピールしました。具体的には、社内で課題になっていたデータ整備の方法を示唆し、その場で簡単なデモを見せることで、周囲は「おお、こんな人が来てくれたのか」と大いに期待を抱くことになりました。

 結果、Aさんは早い段階で重要案件や新規プロジェクトにアサインされるようになり、自分の望むキャリアパスに近い形で業務を進めることができました。これは明らかに、Aさんが新しい会社においては「この分野なら誰にも負けない」という強み(絶対優位)を素直に生かしつつ、組織のニーズにマッチさせることに成功したからだと言えます。

 このように、もしあなたが、何かしら「自分にはこれがある!」「周囲からも評価されている」と胸を張れる強み(絶対優位)を持っているのであれば、まずはそれを大いにアピールし、生かすのが得策です。

 一方、「どの分野でも、周りの人に勝てそうにない」と感じてしまう人もいるでしょう。そんなときこそ、先述の“比較優位”の発想が重要になります。

 例として挙げたいのが、プロサッカー選手である遠藤航選手のケースです。

●日本代表キャプテン遠藤航選手の例

 サッカー日本代表のキャプテンである遠藤航選手は、ドイツ・ブンデスリーガのシュトゥットガルトでキャプテンを務め、2023年にはイングランドの強豪リヴァプールへ移籍しました。リヴァプールといえば、世界的なスター選手が集まる超ビッグクラブ。華々しいゴールやアシストで観客を沸かせるアタッカー、抜群の威圧感で相手フォワードを圧倒するディフェンダーなど、それぞれの分野で“絶対優位”を持った選手が多数所属しています。

 ここで、遠藤選手は、いきなり派手な決定機(シュートを放ってゴールを決める絶好のチャンス)を演出するわけではなく、「中盤での豊富な運動量・的確なポジショニング・堅実な守備力」といった持ち味を生かし、チームのバランスを整え、苦しい場面で相手の攻撃を寸断する働きに集中していました。