移籍当初、遠藤選手には、絶対優位のある領域はおそらくなかったと思われます。もし他のスター選手たちが本気で遠藤選手にとって比較優位(遠藤選手自身の中で得意なもの)であるインターセプトやデュエルに傾注すれば、身体能力や先読みの力で遠藤選手を上回る動きを示すことができたでしょう。

 しかし、彼らがそれをやるよりも彼ら自身が得意な攻撃やビルドアップに集中し、中盤でのインターセプトやデュエルについては比較優位の状態にある遠藤選手に任せるほうが、チームの総合力は格段に高まるのです。

 一見地味にも思えますが、その比較優位をじわじわと発揮することで、「遠藤がいると中盤が安定する」「遠藤のおかげで攻撃陣が思い切り前線で動ける」と評価され、遠藤選手はリヴァプール内での存在感を高めているのです。

経験曲線を生かし
比較優位から“絶対的な強み”へ

 比較優位を見つけたら、次に大切なのが「経験曲線(エクスペリエンス・カーブ)」です。

 これは、ある仕事や作業を繰り返していくうちに、1回当たりのコストや時間が大幅に下がっていく現象を指します。個人レベルで考えれば、同じ業務を何度も経験するうちにノウハウが蓄積され、より効率的かつ高品質に仕上げられるようになる、というものです。

 例えば、最初は資料作成に5時間かかっていたのが、繰り返すうちに2時間、1時間と短縮していく。ただ速くなるだけでなく、形式や内容も洗練され、「この資料は見やすいし分かりやすい!」と評判になる。そして、経験を積むほど、他人が簡単にはまねできないレベルの熟練度に達し、絶対優位を獲得する可能性が出てくる、というふうに進んでいきます。

 新しい職場や部署で周囲の実力の高さに気圧されそうになるときこそ、リカードが示した「比較優位」の考え方を思い出してほしいのです。相手が圧倒的に強いように見えても、自分の中で相対的に最も得意な部分を磨くことで、組織全体に価値を提供し、自分自身もメリットを得られるからです。

 最初は地味に思えるかもしれませんが、継続すれば、経験曲線が示すように、あなたの得意分野はいずれ“絶対的な強み”へと進化するでしょう。

「自分なんて……」と嘆かなくても大丈夫です。「自分の中で比較優位があるところはどこか」「それをどうやって伸ばせるか」を考えてみてください。必ずや、新天地でもあなたらしく、しかも組織にとって欠かせない存在へと成長できるはずです。少しずつでも構いません。ぜひ前向きに、がんばっていきましょう。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)