「わくわくゲート」の廃止
ホンダの説明は“ご都合主義”

 その他のユーティリティで旧型から後退したと思うのが2点ある。運転席まわりの小物入れスペースが減ったこと、そして何よりバックドアに横開きドアを仕込んだわくわくゲートが廃止されたことだ。

 わくわくゲートがあることで、駐車スペースの後ろに壁が迫る時でも、横開きドアを開けて荷室に簡単にアクセスできていた。いちいちバックドアを大きくスイングしなくてもいいというのは想像以上に便利で感銘を受けたものだった。

 それが第5世代の1代限りで廃止された理由について、ホンダ関係者は「横開きドアを設置するために背面に縦線が入るのをユーザーが嫌ったから」と述べていた。が、これはいささか“ご都合主義”な話だろう。

 旧型のリアデザインが不評だったのは事実だが、旧型には横開きドアなしのモデルもあり、それはほとんど見向きもされなかったのだから、嫌われたのは縦線のせいばかりとは言えない。

 縦線入りのモデルで思い浮かぶのが、仏ルノーのトールワゴン「カングー」だ。左右非対称の背面デザインは、ナンバープレートの取り付け位置を中心線からオフセットさせるなど、まるで現代アート作品のように四角の枠内で重心を取っている。

 わくわくゲートは、デザイン上のネガティブポイントがあったとしても、お釣りが来るくらい便利な装備だった。それこそ絵画技法を駆使するなどして縦線が入っていてもかっこいいデザインだったら、ユーザーは利便性に感激して喜んで買ったことだろう。廃止を愚痴っても仕方がないが、そのくらい後ろ髪を引かれる装備だった。

 内装はデザイン、素材とも至って簡素。シートやダッシュボードの表皮素材のクロス生地は、赤みがかったグレーの色調がカジュアルさを感じさせる。シート設計もおおむね良好で、運転席は片道約1500kmのドライブも苦にならなかった。

 若干難があったのは2列目で、キャプテンシートでありながら横方向のホールドが不足気味。ただし、エンジニアが理想と考える着座姿勢より若干背もたれを寝かせると、体重によって背中が背もたれに圧着され、横Gが気にならなくなった。

 仕様で最も謎だったのが、シートヒーターがオプション装備できないこと。シートヒーターは今どきスズキの軽自動車「アルト」の最安グレードにすら標準装着されるもの。ホンダはその理由を、上位グレードのスパーダとの差別化のためとするのは妥当性を欠くと思う。

 試乗車のエアコンは前席の左右独立温度設定のみ可能というシンプルなタイプだったが、好感を持てたのはPM2.5空気清浄機能が強力だったこと。鹿児島市内では桜島の爆発後は大気中のPM2.5が急増する。窓を開けるとエアコンのPM2.5ゲージがレッドゾーンに入るが、窓を閉めるとごく短時間でグリーンゾーンに戻った。車内の空気が終始気持ち良いことは、ドライブでは大切だ。

ステップワゴンe:HEV AIRダッシュボードダッシュボードはツィード調クロス張り。カジュアルさは満点だが、収納スペースが旧型比で減るなど退化部分も Photo by K.I.
旧型第5世代ステップワゴンわくわくゲート旧型第5世代ステップワゴン。このわくわくゲートは継承してほしかった Photo by K.I.