元になっているのは、「海賊と金貨」というよく知られている問題です。
求められていることはシンプルですが、実際に考えはじめてみると予想以上に難しいことがわかります。なぜなら5人は基本的に、他の人の提案に反対したいはずだから。誰かが追放されたら、その分、自分の分け前が増える可能性が高まるので、当然です。それでも賛成される「分割案」とは?
難問ですが、きわめて鮮烈な論理的解答が存在します。
さあ、論理的思考問題界でも評価の高い良問にチャレンジしてみましょう!
「追放システム」のおさらい
この問題で最大のポイントとなるのが、追放システムです。
たとえばAが、5人の取り分を(20,20,20,20,20)にする分割案を提案したとします。これを採用するかどうかを、Aを含む5人で多数決を採り、賛成が半数以上ならその分割案が採用されます。
不採用ならAは追放され、残ったB,C,D,Eで同じことを繰り返します。
・賛成が半数以上なら採用
という点が重要になるので、注意して考えてください。
なお、問題文にある「5人はきわめて論理的である」とは、全員が「もしここで賛成票/反対票を入れると何が起こるか」をきわめて論理的に先々まで読んで行動するという意味です。
そう考えると、先ほどの「20ずつ」で均等に分ける分割案の場合、A以外の4人は確実に反対するでしょう。なぜならAを追放すれば、4人の均等割はひとり25になるからです。
こう考えていくと、どんどん頭が混乱していきますね……。
信じがたい正解
この問題で求められているのは、「Aが最も多くの金貨を手にする分割案」です。
今回の正解はかなり衝撃的なので、Aが手に入れられる金貨の枚数だけ、先にお伝えしてしまいます。それは、
98枚です。
「さすがにそれは無理だろう」と言いたくなる枚数です。
Aが98枚ということは、残りの2枚は、おそらく分割案に賛同してくれる2人に渡すものだと予想できます。しかし、1枚ずつもらって満足するなんてこと、ありえるのでしょうか?
なぜそれが成立するのか、どうすればこの案を導き出せるのか、それぞれ考えていきましょう。
残りが「2人」になると、どうなる?
先ほどのように「Aがこの案を提案したら、Bはこう考えるはず。するとCはこう考えて……」と考えていくと、かなり混乱します。
こういう場合は、いまを起点に考えるのではなく、
未来を起点に考えてみましょう。
つまり、前の3人が全員追放されて、残りがDとEの「2人」になった最終局面です。
このとき、Dは「100,0」という提案をすることで確実に金貨100枚を入手できます。当然Eは反対しますが、ルールでは「賛成が半数以上なら採用」とあるため、「賛成1(D):反対1(E)」となり、分割案は採用されます。
つまりDとEの2人になってしまった場合、Eは絶対に金貨を1枚も得られないということがわかります。
もちろんこのことを、論理的であるDとEは理解しています。
残りが「3人」になると、どうなる?
では次は、AとBが追放されて、C,D,Eの3人が残った状況を考えてみましょう。
このとき、論理的なCは(99,0,1)という分割案を提案するでしょう。Dに1枚も渡さないのは、どのみちDは反対するからです。
Dは、Cさえ追放すれば、先ほど説明した「100,0」という分割案で自分が金貨100枚を得られると知っています。そのため、DはCがいかなる提案をしても絶対に反対します。
一方でEも、Cを追放して残り2人になると自分は金貨が1枚も手に入らないことを知っています。だからEは、たとえ1枚でも金貨が手に入るのであればCの案に賛成するのが最適戦略なのです。そのためEに1枚渡すだけで、多数決はCとEの賛成となり、分割案は可決されます。
だからCは、残り3人になったとき、「99,0,1」と提案するのです。
残りが「4人」の場合は?
では次は、Aが追放されて、B,C,D,Eの4人が残った場合を考えてみましょう。
このとき、論理的なBは「99,0,1,0」という分割案を提案するでしょう。
なぜDにだけ、金貨を渡すのでしょう。
それは先ほど考えたように、残りがC,D,Eの3人になったとき、Dは自分が1枚も金貨が手に入らないと知っているからです。だから、Dはたとえ1枚でも金貨が手に入るのであればBの案に賛成するのが最適戦略なのです。そのためDに1枚渡すだけで、多数決はBとDの賛成となり、分割案は可決されます。
だからBは、残り4人になったとき、「99,0,1,0」と提案するのです。
では、「5人」の場合は?
ようやく問題文の状況に辿り着きました。
以上の展開から考えると、Aは「自分が追放されたら1枚も金貨を手に入れられない人」に金貨を1枚だけ与えて票を獲得すればいいわけです。
Aが追放され、B,C,D,Eの4人になったときの場合は、先ほど確認しましたね。その場合、1枚も金貨を得られない人はCとEでした。
つまりAが提案すべきは、
「98,0,1,0,1」
という分割案です。
これによってCとEの賛成を得られ、賛成票は全体の過半数を占め、この案は無条件で受け入れられるのです。
「A,B,C,D,E」の取り分を「98,0,1,0,1」にすれば、Aは98枚の金貨を手に入れられる
「思考」のまとめ
理想的な結果から逆算していくことで解ける問題でした。それにより、考えるべき人数も少なくなり、思考もシンプルになります。「いっけんどう考えていいのかわからないけれど、単純なモデルから考えていくと論理的に答えが出る問題」って、解いていて面白いですよね。
ちなみに今回は全員が「論理的に考えられる」からこそ成立していますが、もしそうではない人がいたら何が起こるでしょう? それがCとEだとしたら、彼らは「1枚だけで満足できるか!」と怒って、Aの提案に反対するでしょう。その結果、自分が1枚も手に入れられなくなるとも知らずに……。
他者の立場に立って未来を見通す多面的思考って、ほんとに重要です。
・理想の結果から、「こうなるには、皆がどう考えればいいのだろう」と逆算していくことで、理想を実現するための戦略が見えてくる
(本稿は、『頭のいい人だけが解ける論理的思考問題』から一部抜粋した内容です。書籍では、こういった問題を67問、紹介しています)