「インド、すごすぎるわ…」世界が震える“4億人の財布”とは?
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

「インド、すごすぎるわ…」世界が震える“4億人の財布”とは?Photo: Adobe Stock

自動車大国としてのインド

「自動車という非常に便利な輸送手段をいかにして手に入れるか?」

 これはとても重要なことです。なぜならば自動車があれば、人々の行動範囲が飛躍的に拡大するからです。国内に自動車企業があれば、国産車を手にすることができます。しかし、自動車企業が存在しない国では、海外から自動車を輸入しなければなりません。もしくは、海外の自動車企業を誘致して国内で生産するという方法もあります。

 インドは、イギリスの植民地時代より国内資源を活用した繊維工業や、タタ財閥主導による鉄鋼業が発達していました。イギリスから独立すると、国家主導の経済体制の下、豊富な資源と国内市場を背景に輸入代替型工業化(輸入している工業製品の国産化)を進めます。「サンダルから人工衛星まで」という言葉があるように、国内需要を国内生産でまかなう政策を採っていました。

 自動車産業はタタ財閥、マヒンドラ財閥などを中心に発展しましたが、1980年代になると経済の自由化が進み、スズキやホンダといった日系自動車メーカーが参入します。

 スズキは、インド国営のマルチ・ウドヨグ社と協力して、マルチ・スズキ・インディアを設立し自動車の生産を開始。一方、ホンダはヒーローサイクル社とヒーローホンダモーターズを設立し二輪車の生産を開始しました(現在は合弁を解消)。

 そのため今でもスズキとホンダは、インド国内で大きなシェアを持っています。特にマルチ・スズキ・インディアはインド国内の自動車生産においては最大のシェアを誇ります。

外国企業を誘致しつつ、国内需要は逃さない

 しかし、輸入代替型工業化は必ず限界がきます。インドは1991年より市場経済を導入し、開放経済に転じました。2000年以降は外国企業の参入が増えます。

 2002年の「外国企業の出資に関する最低投資金額規制の撤廃」や、「100%外資の参入解禁」といった大幅な規制緩和が背景でした。中でも100%出資で参入したヒョンデ(韓国)は、参入直後からシェアを伸ばし、現在はマルチ・スズキ・インディアに次いでインドシェアは2位です。タタモーターズやマヒンドラ&マヒンドラといった「現地系」自動車会社よりも大きなシェアを持っています。

 しかし、インドの交通手段は依然として二輪車が主流(二輪車生産台数は四輪車生産台数のおよそ4.5倍)であるため、四輪自動車の需要は今後も拡大すると考えられています。実際に、インドの自動車1台当たり人口を見ると、2005年に110.9人だったのが、2020年には20.1人になっています。自動車を保有する国民が増えている証拠です。

インドの中間層は4億人超え!

 一般的に自動車普及の目安は、国民1人当たりGDPが2500~3000ドルだといわれています。2022年、インドの1人当たりGDPは2445ドルですから、国内全域で自動車が普及していくにはまだ時間がかかりそうです。

 しかし、インド国内の高所得層はもちろんのこと、中間層への自動車販売は可能です。インドの中間層は32.8%(2020年)とまだ低調ですが、母数が大きいため人数としては4億5300万人程度と考えられています。この人数は、アメリカ合衆国の人口よりも1億人以上も多い規模です。こうした背景から、インドは国内販売に軸足を置いた自動車生産体制を採っているのです。

(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)