「強襲」も「奇襲」も考えられる
台湾侵攻のシナリオ

山口 上陸作戦の前の段階で、まずは海上封鎖とミサイル攻撃を周到に実施すると思いますが、同時進行の可能性もあると思いますか?

小泉 両方あり得ると思う。私だったら両方考えます。

山口 まず、政治的に屈服させる戦略。それが効かなければ海上封鎖、ミサイル攻撃で苦しめて、早めに降参させる、または台湾が軍事的に弱り切ったところで上陸作戦。海上封鎖とミサイル攻撃をする前に上陸すると、ロジスティクス的に相当の負担がありますし、返り討ちか妨害されるリスクがあります。

小泉 台湾の海岸をがちがちに固められてから上陸するのもきつい。電撃的に上がれたら、そっちのほうが損害は少ないかもしれない。だから正直、中国がどう考えるかでしょう。

 要するに強襲か奇襲かの違い。海上封鎖後の上陸というのは強襲です。ノルマンディー上陸作戦は奇襲でした。

 よりあり得るとすれば、最初から大規模な軍事力行使を伴わないハイブリッド型、グレーゾーン型です。やはり海上封鎖みたいなものを併用しながら、情報戦、サイバー戦、ゲリラ戦などを併用するシナリオが考えられます。

山口 ハイブリッド戦争の場合、認知戦や経済的圧力などの非軍事手段と、軍事的威嚇行為を混ぜます。最初から軍事一辺倒にすると、相当の損害や苦戦を強いられるリスクがあるし、相手の反発や抗戦に備える機会を与えるだけですから。中国による台湾のハイブリッド介入はすでに行われています。軍事的手段のほうが目立っていますが、非軍事的介入は例えば2024年1月の総統選挙でもありました。

 中国は次第に軍事的手段へシフトしています。これは近年の軍事的動向から見えますが、中国自身が非軍事的手段の有効性が薄いと判断しているからです。

香港が罠に落ちた「一国二制度」を
台湾は受け入れない

山口 台湾政府は、独立に関する言及こそ避けているものの、「1つの中国」に触れている「92年コンセンサス」に対する中国の解釈や、習近平が提起した「一国二制度」を受け入れていません。台湾社会では「中国人」よりは「台湾人」としてのアイデンティティー意識が広がっていて、中国に吸収されることを良しとする声はごく少数です。

 台湾が自ら独立した場合、これが中国からの武力行使につながることは広く理解されていますが、一方で香港における一連の出来事を見て、「一国二制度」の罠も目の当たりにしました。