小泉 ところが、ソ連側はもうルナMという戦術核ロケットを運び込んでいて、米軍が上陸してきたら、すぐ撃て、と言われていました。ケネディが一歩間違えれば、キューバで限定核戦争が始まっていたのです。
それから、キューバを封鎖する米海軍は、ソ連の潜水艦が展開してきたことがわかっていたので、音響爆雷をどんどん落とし、強制浮上させようとしました。ところが、ソ連の潜水艦は核魚雷を積んでいて、爆雷投下は攻撃に当たるので核魚雷を撃つべきかどうかという議論をしていました。
最終的に艦隊副司令官の政治将校が、核攻撃の命令は出ていないからと説得して、思いとどまらせたそうです。ですから、キューバ危機では少なくとも2回、核戦争の瀬戸際がありました。
誤認によって中台衝突が
起きる可能性もある
山口 確かに、誤認によって中台衝突が起きる可能性はあります。例えば、中国が台湾軍に攻撃されたと誤認する。あるいは台湾のほうが、中国軍が攻めてきていると判断し、撃ち落としてしまった場合など、いろいろ考えられます。
訓練として行ったミサイル発射を、実際の攻撃だと勘違いして反撃し、一気に戦争にエスカレートする恐れもある。
小泉 軍備管理専門家のジェフリー・ルイスが2018年に書いた『2020年・米朝核戦争』(土方奈美訳、文春文庫)というシミュレーション小説があります。北朝鮮が誤って韓国の修学旅行生が乗った飛行機を撃ち落としてしまったことが端緒となり、米朝間で核戦争が起きるという話で、かなりリアルです。
冷戦期の事例を見れば、実際本当にどうでもいいような誤解から交戦寸前に至ったことがたくさんあります。偶発的な事態からのエスカレーションがどこまで行くかは、正直言って整理されていません。
山口 即応力を示すには演習を行うのが一番です。中国は演習を大々的にやっているし、これからもグレードアップしていくでしょう。すると緊張が高止まりしてしまうので、それに伴って偶発的な衝突の可能性が高くなります。
小泉 偶発的事態とは別に、中国による意図的な台湾への全面侵攻も考えておくべきだと思います。その場合は、米国が介入してこないことを何らかの形で中国が確信した時です。例えば核抑止や政治的な意思の後退などの理由で米国が介入しない場合、中国軍が台湾海峡版ノルマンディー上陸作戦のようなことを行う可能性も十分あると思います。