仕事でも趣味でも、あなたが本当に良い成果を出したとき、そこには一緒に喜びを分かち合える「誰か」の存在がひとりでもいなかっただろうか。

 逆に、仕事がうまく進まないとき、物事がうまくいかないとき、そこには立ちはだかる「コミュニケーションの壁」がなかっただろうか。

 コミュニケーションの質が仕事に及ぼす影響は計り知れない。コミュニケーションがうまくいっていなければ、いつか必ず破綻する。

 逆に、「ポジティブなコミュニケーション」があれば、メンバーは前のめりに仕事に取り組んで、最大限にクリエイティビティを発揮できる。短期的にはうまくいかないことがあっても、長期的には様々な困難を乗り越えていける。

 イノベーションを起こして成長している企業、実績を出している個人には、共通点がある。

 彼らはポジティブなコミュニケーションで「お互いを活かし合う術」を知っているのだ。自分を知り、相手を知り、お互いを活かし合う。それさえできれば、あとは全部うまくいく。

イノベーションの土台には
「安心して話せる環境」が不可欠

 コペンハーゲンの運河が流れるホルメン地区に、海軍の砲艦収納庫をリノベーションした一連の木造建築が並んでいる。だが、歴史的な木造建築の扉を開けて、中に足を踏み入れると、ビックリする。そこには、モダンなオフィス空間が広がっているのだ。

 初夏の明るい日差しが降り注ぐある日の朝、私はその建物群の一軒である建築事務所3XN/GXNを訪問した。

 GXNイノベーション部門のチームリーダーであるコーアを訪ねると、ガラス張りの会議室に通してくれた。歴史的な木造建築とガラスという組み合わせがモダンで素敵だ。通路には、様々な素材やカラーパレット、模型が飾られていて、眺めているだけでも楽しい。

 朝の10時、別の会議から戻ってきたコーアがやって来る。すでに彼の頭は高速にフル回転している。

 コーアは、英国オックスフォード大学で人類学の博士号を取得した優秀な研究者でもある。デジタルデバイスや脳の仕組みに関する専門知識が豊富で、私の取材にもテキパキと早口で対応してくれた。

 てっきりテクニカルな話になるのかと思いきや、意外なことに、イノベーションを起こすためには、職場での「安心して話せる環境」が重要なのだと指摘してくれた。