ここではそれを順番付けしてご説明すると、(1)まず群衆が投石して戦闘車両を停止させる。(2)車両から兵士が脱出する。(3)兵士は軍服を脱ぎ捨て民衆の中に紛れ込む。(4)乗組員が不在になった戦闘車両に火炎瓶が投げつけられ炎上する、という流れである。

 この流れであれば、兵士は傷つくことなく車両を離れられ、空になった車両だけを焼失させることができる。もし火炎瓶攻撃が手順の最初に行われていたら、戦闘車両の中にいる兵士は、脱出が難しくなることもあり得るし、脱出できても大やけどをする恐れもあっただろう。

 もっとも投石を受けただけで、兵士が即座に車両の中から逃げ出し軍服を脱ぎ捨てるということも、いささか奇妙なことではあった。

 戦車にせよ、装甲車にせよ、投石ごときをはねつけられるだけの強靭さが備わっていたはずだ。投石を受けた程度で兵士が乗車している装甲車両を放棄してしまうのであれば、これはあまりに腑抜けと言わざるを得ない。人民解放軍の名誉のためにも、そこまで臆病な兵士はいなかったと筆者は信じたい。

 ではどうして兵士は車両から逃げ出したのか。それは、火炎瓶による襲撃が軍側の偽旗作戦による「演出」だったと考えればすべてが腑に落ちることになる。

 軍側の「暴徒」が軍事車両を火炎瓶で襲撃するのであれば、同士討ちの形で乗員の兵士を傷つけることを極力回避したいと考えるだろう。火炎瓶攻撃の際に、先に挙げた(1)から(4)の手順をきちんと踏むことで、乗員兵士側の被害を出さずに車両を炎上破壊する偽旗作戦が行われた疑いが濃厚というわけだ。

火炎瓶攻撃を受けたのは
ポンコツ車ばかりという謎

 実際に焼かれた車両のほうからも、軍側の「演出」をにおわせる疑惑が浮かび上がってきた。

 まさに車のプロである渡辺氏が「どれもみなまったくのポンコツ車に映った」と記されているように、事件直後、被害を受けた北京市内の軍用車両を見て回った筆者は、その型式がかなり古いものばかりであるとの印象を受けた。