夫のベナは3個、食べる量に気をつけているルシオでも2個焼き。私は目玉焼きは1人卵1個で作るものと思って育ったのだが、それは選択肢になかったようだ。彼女は「じゃあひとまず2個ね」と私の希望を無視して焼き始めた。3人の朝食で7個の卵が焼かれた。

目玉焼きにサルサをかけるのが
メキシコ主流の食べ方

 さて、盛り付けだ。メキシコで主食のように食べるのは、トルティーヤと呼ばれるとうもろこしの薄焼きパンだが、これを2枚皿に敷き、カリッと焼けた双眼の目玉焼きをのせて、出来立てのサルサをおたま一杯たっぷりかける。

「ウエボス・ランチェロスだよ」というそれは、スペイン語で農夫風卵料理という意味。目玉が隠れるほどにたっぷりかけられた赤いサルサが目にも鮮やかで、朝から元気になるようだ。

 サルサは、トマトの甘味の中にピリッと爽やかな辛みがあり、これだけでなかなかうまい。「温かいうちにね」と言われながら、半熟の目玉焼きにナイフを入れ、サルサを絡め、トルティーヤと3者をフォークでまとめて頬張る。

 酸味や辛みのあるサルサと黄身が絡んでクリーミーにまとめ上げ、卵とサルサのどちらが主役かわからないくらいの一体感だ。そして、すべての汁気を吸ったトルティーヤ。目玉焼きの下にパンのようなものを敷く発想はなかったが、おいしさを1滴も逃さないうまくできた構造だ。

 目玉焼きはシンプルに塩か醤油でと決め込んでいたけれど、たっぷりのサルサで食べる楽しみ方に出会った朝だった。

 興奮して食べる私を見ながらルシオは、「これも簡単でいいけど、私はもっと色々のせたウエボス・モトゥレニョスの方が好きなの」と言う。なんだって、もっとのせるのか?

 別の日の朝、それを作ってくれた。まずはサルサを作る。

「材料はだいたい同じだけど、こっちのサルサの方がさらっとしてるの」そう言いながら、トマトに玉ねぎに唐辛子などを炒める。メキシコには何十種類ものサルサがあるのだ。今日も「卵はとりあえず2個ね」と言って焼いていく。