「戦術」を感じられない
石破政権の対米交渉

 赤澤大臣は本稿執筆時点で7度にわたって渡米し、交渉に尽力している。だが、石破首相自身が相手国の交渉スタイルを理解していない以上、大臣の努力も空回りするだけである。

 実際、赤澤大臣の訪米は「不一致点を確認するだけの儀式」を繰り返しており、悪く言えば「小僧の使い」と化している。

 ただし、これは赤澤大臣の責任ではない。交渉材料を持たせず、たいした戦術も持たせず、昭和の営業マンよろしく「誠意で繰り返しアタックしろ」と命じているかのごとき石破首相の責任だろう。

 ちなみに、6月のG7サミット(カナダ)でも、石破首相はトランプ大統領と30分の会談を持ち、自動車25%関税や24%相殺関税の免除を求めたが、進展は見られなかった。

 つまり、「誠意など通用しない」ということを石破首相はすでに経験しているのである。だが、そのことをいっこうに顧みる気配がない。

 7月9日が事実上の交渉期限とされていたが、アメリカ側は延期も示唆している。だが、上院選(7月20日)が近づくにつれ、交渉が政治的な圧力を強く受けるようになっている。交渉材料のない交渉に時間を費やすことは、相手にとっても日本にとっても不毛な結果しかもたらさない。

 石破首相の外交における最大の弱点は、相手に譲歩させるための戦略を描かないで交渉に臨んでいることにある。

 外交交渉においては理念や理想ではなく戦術が問われるのだが、今回、「戦術」がほとんど感じられない。

なぜ安倍元首相は
トランプ大統領の信頼を勝ち取ったのか

 対米交渉に際して見事な戦術を繰り広げたのが安倍外交だった。

 安倍晋三元首相は「個人外交」でトランプ大統領の信頼を勝ち取ったが、そのことがもたらした恩恵は計り知れない。当時、各国首脳は対米外交で安倍元首相を頼るようになり、日本は外交の国際的なハブとなった。

 その結果、日本はアメリカ以外の外交においても信頼されるようになり、日本の影響力はバブル崩壊以後で最大のものになっていた。

 当時、トランプ大統領は「政治家としての経験がない」こと、「名門出身でない」ことなどから、国際的な正統性を疑問視されていた。そうした状況の中で、世界有数の民主国家である日本が、全身全霊でもてなしたことは、トランプ大統領にとって大きな自信となり、その後の交渉にも好影響を及ぼした。