安倍外交の神髄は、「相手を見て、相手に合わせて、こちらの国益を守る」という現実主義に徹することだった。
政治の基本は「ギブ&テイク」にあり、それは外交の場でも同じである。安倍元首相は「何をしたらトランプ大統領が国民に対して成果を誇れるか」を考え、日本の国益をできるだけ損ねない形でトランプ大統領に恩恵を与えることに徹した。
トランプ氏の大統領当選直後にトランプ邸を訪ねたときも、「あまりに卑屈ではないのか」という批判を浴びせられたが、それを気にすることはなかった。それが日本の国益になると確信していたからだ。
理念ではなく、実利。抽象論ではなく、現場主義。それが外交であり、まさに今、日本に必要なものである。
政治信条ではなく
現実主義で動くべき
石破首相が安倍外交を「過去のもの」と切り捨て、自身の信条だけで外交を動かそうとしていることは、日本の国益に対する裏切りである。
安倍元首相が遺した外交の「教科書」が、石破首相には一切読まれていないように見える。反主流派として「正論」を語ることで注目を集めてきた過去に引きずられ、自らが主流となった現在も「反主流の手法」を踏襲している。
だが、もはや時代は「理想」では動かない。必要なのは、したたかに国益を追求する現実主義のリーダーである。
もちろん、これまで「反安倍」でやってきた石破首相に、安倍元首相のような華麗な個人外交を求めるのは酷だろう。
現実主義者だった安倍元首相が柔軟に対応してきたのに対して、石破首相は論理性や正義を重視する。
政治において論理性や正義が重要であるのは確かだが、自国の利益を最大化することを最大目標としている外交の場では、論理性や正義は二の次なのである。国益が首相の信条で左右されるような状況は、国家にとって大きなリスクでしかない。
もう一つ、大きな問題は、日本における外交リソースをほとんど生かしていない点にある。
自民党には共和党にパイプがある議員も少なくないが、旧安倍派パージをやったことで、それが使えていない。
その結果、トランプ大統領の考え方が理解できず、「我が道を行く」で何度も壁にぶち当たっている。
今こそ、安倍外交の知恵と経験を再評価し、それを継承するかたちで現実的な対米交渉を再構築すべきときではないだろうか。
それができないのであれば、石破首相は国益を考えて速やかに身を引くべきである。