日本の公務員制度における特別職とは何か
国家公務員法第2条1項は、「国家公務員の職は、これを一般職と特別職とに分つ」とし、同条3項で特別職を限定列挙している。
中央省庁で勤務する事務次官以下の国家公務員の多くは一般職であり、国家公務員法では、成績主義の原則に基づく任用、勤務実績不良等の法律で定める事由に該当しなければ免職されないとする身分保障が規定されている。
一方、特別職は多種多様だ。任用、身分保障、分限、服務などの在り方も異なることから、それぞれ個別の法令において人事制度が規定されている。「一般職」と異なる特別の人事管理が必要なことから、「特別職」とされる。
特別職を大まかに分類すると、(1)国会議員が就くことが制度上可能な職、あるいは、内閣官房の幹部(部局長)、内閣総理大臣秘書官など、(2)就任に国会の同意を必要とする職員(行政委員会の委員、審議会委員の一部)、(3)自衛官を含む防衛省の職員(防衛事務次官など幹部も含まれる)、(4)国会議員、国会職員、国会議員の秘書(三権分立のため、立法府において人事制度を構築する)、(5)裁判官および裁判所職員(前と同様に、司法府において人事制度を構築する)、(6)行政執行法人(いわゆる公務員型独立行政法人)の役員――となる。本稿で説明する特別職は、(1)を対象としている。
狭義の政治任用とは
総理は国会議員の中から国会の議決で指名されることが憲法上定められている。また、国務大臣、内閣総理大臣補佐官、副大臣、大臣政務官、大臣補佐官、内閣官房副長官は、国会議員が就くことが制度上可能であり(国会法第39条参照)、実際に国会議員が就くことが多い。非国会議員が国務大臣に就いた例として、学者出身の竹中平蔵元国務大臣(経済財政政策担当)の例が知られているが、郵政民営化、構造改革などは国会議員との調整が重要であり、選挙で選ばれた国会議員に対抗するため、竹中氏は参議院議員となり、また、その後、総務大臣の職に就いた。最近では、非国会議員が閣僚となる例は見られない。
内閣官房副長官の一人は慣例で官僚出身者が就き、総理補佐官、大臣補佐官には非国会議員が就くことがある。
総理補佐官は、法律・政令上の根拠のない、総理の私的な相談・補佐役として始まり、1996年に法制化され(定員は3人以内)、中央省庁等改革において定員が5人以内とされた。総理補佐官の役割は、総理に対する政策助言、関係省庁との調整、総理の特命事項(災害対応、外交調整、経済政策など)の担当など、いろいろな例がある。これまでに国会議員や省庁出身者などが就いている。
岸田内閣で総理補佐官を務めた村井英樹衆院議員によると、補佐官の仕事について、AI(人工知能)など、動きが速くて全省庁にまたがり、官邸のリーダーシップが求められる政策や、自民党との調整も含めた政治的な判断が必要な案件が主だったという。なお、各大臣にも、補佐官1人の設置が認められている。
このような、いわば議員登用型の職を、狭義の政治任用職とする。国家行政組織法などでは、副大臣、大臣政務官について、内閣総辞職の場合においてはその地位を失うことが規定されている。他の職も、規定はなくとも退任することが想定されている。
広義の政治任用とは
内閣官房の幹部については、内閣危機管理監、国家安全保障局長、内閣官房副長官補(3人)、内閣広報官、内閣情報官が内閣法で規定されており、内閣官房の部局長としての役割を果たしている。これらの職は、総理の申し出により内閣が任命する、あるいは総理が任命する。さらに、内閣人事局長、内閣感染症危機管理監は、3人の内閣官房副長官の中から総理が指名する者が充てられる。これらの重要ポストは、高度の専門的な識見を有する者を広く各界から集めることができるようにするため特別職とされているが、関係省庁と連携して業務を遂行する必要があり、行財政制度や国会対応にも通じている必要があるため、省庁出身者が就くことが通例である。彼らの下には、多数の一般職の職員が、関係する省庁から内閣官房への出向、または併任として仕えている。また、内閣官房では、
3人の内閣官房副長官補は、内政、外政、事態対処・危機管理をそれぞれ担当し、このうち内政担当および外政担当は、総理などからの指示を踏まえ、内閣が推進する重要政策に関する企画・立案を行ったり、関係省庁が複数にまたがるような政策課題の調整を行ったりしている。このため、年々、内閣官房の定員が増加しているとともに、各省庁からの併任者も増加している。特定の政策課題を推進・調整するための「分室」を内閣官房副長官補の下に設置し、機動的かつ柔軟な対応を行うこともある。最近では、米トランプ政権の関税政策に対応するため、「米国の関税措置に関する総合対策本部事務局」が設けられている。
参考までに「内閣の機関」(ほとんどは内閣官房)の定員(専任)の変化を見ると、2001年の新省庁体制では453人であったのが、内閣官房の業務が拡大し、また、新組織が相次いで設置されたこともあり、25年度末で1630人となっている。
英国内閣府でも業務が膨れ上がり、定員が急増したことは、本特集の#21『英国が、米国との関税交渉でいち早く合意できた裏に、両首脳の最側近同士による早期の交渉あり!英スターマー労働党政権は米民主党と友党関係なのになぜ?』で説明した(日本の内閣府でも、一部、内閣官房と同様の機能を有するため業務が増えているが、本稿では内閣官房について説明する)。
総理秘書官については、中央省庁等改革の際、それまで内閣法で定数3人と規定されていたのを、柔軟に対応できるよう内閣官房組織令で定めることとした。同改革の前の総理秘書官は、おおむね、総理の事務所などから1人、大蔵省(現財務省)、外務省、警察庁、通産省からの4人、計5人という構成であった(うち2人は秘書官事務取扱として派遣組織の定数を使用していた)。
現在、石破内閣では、8人の総理秘書官(事務所出身1人と、省庁OB1人が、いわゆる政務、省庁から派遣されている部長・審議官級の6人が事務)がいる。
総理秘書官の法的権限は、総理の命を受け、機密に関する事務をつかさどり、または臨時に命を受け内閣官房その他関係各部局の事務を助けることである。だが、近年、総理に権限が集中しているため、総理秘書官の果たす役割は大きくなっている。特に、首席を務める総理秘書官は、近年、省庁出身者が就くことが多いが、省庁からの派遣であっても、総理自身と以前から関係が深いことが多く、霞が関全体への大きな影響力を有する。もちろん、総理の執務スタイルや、総理と閣僚、総理と与党幹部の関係により、総理秘書官の実際の役割、影響は大きく変化する。
他の国務大臣には1人の秘書官が認められている。
以上の職を、広義の政治任用と呼ぶ。総理秘書官、大臣秘書官は、狭義の政治任用と同様、総理、大臣と進退を共にするが、他は、内閣の発足とは別の時期に人事が行われることが多い。
なお、政治任用の大臣秘書官とは別に、省庁で勤務する中堅エース級が、「秘書官事務取扱」の発令を受けて大臣秘書官を務める。国会対応のサポート、閣議、閣僚会議への随行などを行うが、こちらの方は一般職である。