経済無策だった民主党政権

 民主党が圧勝した2009年衆院選マニフェストはリベラル色が横溢(おういつ)した立派な出来だった。だが、過度に分配面に重きが置かれ、成長と雇用の具体的施策については、ほとんど言及されていなかった。

 もともとリベラル派政権は、経済成長と雇用創出にもっとも重きを置き、累進課税などによる所得格差の是正、社会的弱者の救済、地球環境の保全などを政策綱領に掲げるのが尋常である。民主党政権が策定した「日本再生戦略~フロンティアを拓き、「共創の国」へ~」(2012年7月31日閣議決定)の成長戦略は、実のところアベノミクスの第3の矢で表明された成長戦略の内容と大差なかったのだが、消費税増税法案の審議の真っ最中、とても戦術を練る暇はなかったのだろう。

 緊縮財政は保守派政権の専売特許だ。また歳入増を図るには、消費税増税ではなく富裕層増税を優先するのが、リベラル派政権の定石なのだ。にもかかわらず、自民党の保守派政権ですらためらい続けた消費税増税に、民主党政権の運命を賭して臨んだ野田佳彦首相(当時)は、リベラリズムとは一歩も二歩も距離を置く、保守派政治家以外の何者でもなかった。菅直人元首相もまた、消費税増税を掲げて2010年参院選を戦い、予想どおりの敗北を喫し、その後の民主党政権の足かせとなった痛恨の「衆参ねじれ」の元凶となった。民主党政権を当初率いた鳩山由紀夫は、正真正銘のリベラリストであると同時に理想主義者である。他方、菅と野田は、理念や思想とは無縁な現実主義者にほかならなかった。

 2012年衆院選における民主党大敗の原因は2つある。1つは、リベラル派政権としてのアイデンティティを失ったこと。消費税増税はその証左である。もう1つは、成長と雇用への配慮を欠く「経済無策」に終始したこと。物いわぬ有権者の我慢も限界にきていた。              

*後編(7/1公開予定)に続く。本記事は『経』7月号にも掲載します。


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