「世界初なのに、なぜ売れないのか?」
壁を超えるカギは、「謎」が持つ引力にあり

世界を惹きつける「謎」をつくるベンチャーは<br />いかにして起業の「壁」を乗り越えたのか?<br />ユーグレナ出雲充×<br />エニグモ須田将啓 特別対談【前編】須田将啓(すだ・しょうけい)[株式会社エニグモ 代表取締役最高経営責任者]慶應義塾大学院 理工学研究科 計算機科学専攻 修士課程修了。
2000年博報堂入社。2004年株式会社エニグモ設立。現在、代表取締役最高経営責任者。2012年世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leader 2012 選出。
著書に、『やんちゃであれ!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『謎の会社、世界を変える。――エニグモの挑戦』(ミシマ社)がある。

須田 でも、バイマ立ち上げ当初は、そういった楽しさが本当に文字通り「謎」だったので、ユーザーが集まらず、なかなかマッチングが起こらなくて苦労していましたよ。

出雲 わかります。商品性は全然違いますが、ミドリムシは59種類もの豊富な栄養素を持つことから、新しい食料源として宇宙開発の分野からも期待されているし、ジェット燃料にもなります。持続可能性を持ったエネルギー源であり、無限の可能性を見出すことができます

 だから、世界で初めて培養に成功した時は、天に昇る気持ちで舞い上がっていました。でも、不思議なことに会社の電話が全然鳴らないんですよ。「なんでだろう?」と考えて、ようやく気づいたんです。

 「なるほど、注文が殺到して回線がパンクして、つながらなくなっているんだな」と。

須田 (笑)

出雲 それで、自分の携帯電話で、会社の電話番号にかけてみたんです。そうしたら、あっさりとつながってしまって。何度やっても同じでした。乾いた電話のベルが鳴り響くだけ。回線は、想定外に正常でした。

 そこで初めて「なんで売れないのかな?」と思ったんです。その理由がもう、まったくわからなくて。だって世界初ですよ?「全世界待望のミドリムシ、ついに石垣島から日本に上陸!」なんです。売れないのは、僕にとって最大の謎でした。

須田 まあ、わからないですよね。バイマの場合は、世の中のECサイトに、「単純にインターネットを使って物が買える」から「誰が選んだものか」、つまりセレクションが重視される秩序へのシフトが絶対に起こる、という確信がありました。そして、その時代が来ると、重要になるのは目利きとしてのバイヤーだ、と信じていた。システムも完璧だった。そのはずなのに……。

出雲 わからないですよねぇ。なぜユーザーが集まらないのか。

須田 まあ「来るだろうな」とは思っていましたが、何となくの根拠しか持っていませんからね。ちなみに、出雲さんはいろんな大きな会社から資金を調達していて、すごいなと思うんですが、その秘訣はどんなところにあるんですか?

出雲 それもきっと「謎」なんだと思うんです。やっぱり、「ミドリムシで地球を救う」って言うと、みんな「ん?」となるんですよ。その謎に吸い寄せられてしまう。求心力なんて言うとかっこよすぎるんですが、ミドリムシの謎には人を惹きつける引力があります。それで「みんなもやりましょうよ」「面白いですよ」と言い合っていると、どんどん大きくなって、同時に引力もどんどん強いものになっていく。

須田 確かにそれはありますね。最初のアイデアに人が吸い寄せられていって、その重心に人がまた惹きつけられていって、どんどん大きくなっていく。その引力の強大化は止められないものですよね。