どの会社でも、8営業日後には速報ベースの情報を上げてもらう

田中 そのためにどんな工夫をされていましたか?

岩田 財務部門に対して要求していたことは、まず「早く情報をくれ」ということ。私がよく例として言ったのは、経営者は雨が降っている夜に飛行機を操縦しているようなものだということ。それも、心もとない小さな飛行機です。そして、飛行機の計器類に示されている数字が財務指標です。経営者は、こうした財務指標をタイムリーに見ないことには正しい判断も操縦もできません。だから、財務部門には「速報ベースでかまわないから、早くデータを出してください」と常に言っていました。

田中 速報ベースですか?

岩田 速報ベースで十分です。つまり、正確性は二の次でよくて、100万円単位でいいから早く出してね、ということです。月次決算を早く締めて、みんなでいろいろと議論したり、経営判断したりしたいわけです。でも、私がCEOをやった会社は、どの会社も最初は月次決算が翌月20日にならないと上がってきませんでした。月次決算というのは、きちんとやれば8営業日くらいまでは簡単に早めることができます。3営業日というと、システム投資にお金がかかります。そんな必要はないから、まず20日を8営業日にしてくれ、という業務改革を必ず最初にやってきました。

田中 でも、できれば速報ベースでいいから8営業日よりもっと早くほしくありませんか?

岩田 8営業日で月次決算を締める事ができるようになるには少し時間がかかりますが、経理の担当者に対しては、3営業日までに速報ベースで出してください、とすぐにお願いしていました。これは、その後に数字を修正してもかまわないから、とにかく早いうちにだいたいのファクトを知ることが大切だということです。要するに、先月はどうだったのか? 赤字だったのか、それとも、黒字だったのか? どれだけ儲かったのか? ということを知りたいのです。細かいことは気にせず、100万円単位でいいから出すように、と指示します。その速報値を見て、いま我々が操縦している飛行機は良い調子なのか、それとも、下がってきているのか? ということを確認します。

田中 経理部門というところは、きっちり確定した数字しか出したがらない傾向にありませんか?

岩田 だから、私は出された速報値について「この数字、違うじゃないか」とはあまり言いません。そんなことを指摘したら出てこなくなってしまいますからね。極論すると、赤字か黒字か、プラスかマイナスかだけでも教えてくれればいいのです。