なぜ、「PDCAを回す」という当たり前のことができないのか?
田中 岩田さんは、複数のご著書の中でPDCAを回す力について再三書かれていますね。いまおっしゃっている予測する力というのは、まさにPDCAを回す力と密接につながっていますね。
岩田 意外とみんな実践していないのです。私がCEOとして入ったときに、そういうことをやっていなかったので、早い段階で習慣化しました。一般的に、事業計画は、外部の投資家に対しても社内に対してもコミットするわけです。ところが、実際のところは計画通りに事業は進みません。計画上は100個売れると思っていたけど、事業の進捗がおもわしくなく、年間計画を80個に落とさざるを得なくなった。そうすると、当然お尻の利益計画が落ちてしまうわけです。この20個を埋めるのにどうしたらいいんだ? となります。それでは、販促キャンペーンをかけようとか、帳尻を合わせるための手を打つわけです。予測値がわからないことには、そういった経営判断すらできなくなります。予測する力を強くする、それがPDCAを回す力を強くし、結果的に会社の力にもなっていきます。
田中 とても地味な作業の積み重ねで遠回りにも見えますが、結局、それが経営のスピードを上げることにもつながりますね。
岩田 できるだけ早くファクトを把握し、できるだけ早く動いたほうがいいと思います。あと私がよく言っていたのは、良いことは明日できるなら明日から始めよう、ということです。大きな組織では、ビジネスで何か新しいことをスタートするとき、来月から、下期から、来期から、となってしまいます。べつにキリのよい日からでなくてもいいわけです。
田中 そうですね。やると決めたらすぐに始められるわけですから。
岩田 組織にいると、なぜか「来月1日からやります」となってしまいがちです。いやいや、「今日からやりましょう」と言いたくなりますね。
田中 大きな組織にいると、前例踏襲というか、新しいことを始めて失敗するのを避けようという力学が働きますね。
岩田 だけど、経営者の立場からすると、良いことは「とにかく、すぐにやれ」「今すぐやれ」と言いたくなります。その感覚の違いはすごくあります。
保田 ところで、その数字を上げてきてくださいというのは、社長に対してのダイレクトラインで上げてくる形なのでしょうか? 役員会の共有資料などの形で上げてくるものなのでしょうか? いまのお話では前者ですか?
岩田 前者ですね。速報値をほしがっているのは私だけですから。ほかの役員はそんなに興味を持たないものです。そこが社長と社長以外の役員の差なのです。なぜなら、ボトムライン(最終利益)に責任を持っているのは私だけですからね。事業部のトップが持っているわけではありません。
保田 見方によっては、本来はCFOが責任を持つべき領域もCEOである岩田さんが見ていらっしゃるようにも受け取れます。
岩田 本来は、経営レベル、要するに、執行役員とか取締役だったら全部見ないといけないけど、基本的にはみんな部門代表という立場です。だから、CEOの私と、CFOや経理担当役員は必ず経営全般を見ていますから議論は成り立つけど、ほかの人たちは興味がないからわかりません。もちろん、CFOはきちんと機能しています。ただ、私は待てない性格なので、CFOからの報告を受ける前に経理部長から直接月次決算の速報データをもらうようにしていました。CFOに求めるのは、どちらかというと先ほどから話している予測数値です。