予測力こそ企業の力
田中 20日を過ぎてから「これが前月の結果です」と持ってこられても、すでに月の3分の2が経過しているわけで、前月の反省を踏まえた手を考えて打とうにも時間がありません。最も貴重な時間という資源の3分の2を常に無駄にしていることになりますよね?
岩田 そのとおりです。それから、すごくこだわったのは、とにかく「予測をしなさい」ということ。たとえば、3月決算の会社で今が7月だったとしますね。7月の時点で3月末の数字を予測しろということです。それを毎月ローリングで予測を更新していきなさいと指示していました。4月の時点では12ヵ月の予測をしないといけませんが、時間が経過すれば予測期間が短くなりますから、どんどん精度が上がっていくわけです。この予測する力こそ、私は企業の力だと思っているのです。
田中 予測する力が企業の力というのはユニークな視点ですね。
岩田 つまり、予測するということは、今後実行される計画や会社を取り巻く経営環境のことも織り込まないといけません。計画通りに行かないこともありますから、現時点で最も実現可能生の高いシナリオを常に考えて、その後、どういう数字が出てくるか、私は関心を持って見ていました。そのシナリオが行けそうなのか、厳しいのか、そして、計画やキャッシュに余裕があるのかないのか、それらを見て、日々の投資判断をする際に、リスクがどのように振れるかということを常に考えるわけです。財務部門や経営企画室、社長室といった部署に対して、「事業部に予測をさせなさい」と厳しく言っていました。それでもなかなか出て来なかったですが。私は予測力は、その会社の実力を測る指標だと思っています。
田中 シナリオプランニングは今の時代、企業にもっとも求められている能力のひとつですね。
岩田 はい。私は、終わったこと、過去の実績に関するデータ集計は経理部に任せればいい話であって、その集計結果をどう生かすかという、つまり、その先を予測することが一番大事なことだと思っています。予測の精度を上げることができれば無駄な発注をしなくて済む、過剰在庫を抱えなくて済むわけです。商品の売り逃しもなくなる。キャッシュが回らなくなることも避けられる。私は予測の精度が経営に与える影響がいかに大きいか、いろいろな会社で痛感してきました。それは、場合によっては現実をコントロールしてしまうくらいです。本当に力のある会社は、実績を予測に合わせますからね。だから、私は、予測をするクセをつけなさいと口すっぱく言っています。
田中 予測する力が企業の力に反映されていたのは、ザ・ボディショップでもスターバックスでも同じですか?
岩田 同じですね。前月の速報値をもらうときに必ず通期の予測数値をセットで出してもらい、半年先、1年先も常にローリングで予測する力を付けさせました。予測しようと思ったら、本社は、この商品の売上がちょっと落ちてきているのではないか? といった具合に現場の情報にも敏感になります。