地球温暖化の抑止力として
原子力に注目が集まった
チェルノブイリ原発事故の3年後、1989年にフランスが「炭酸ガスを排出しない原子力」というコンセプトを打ち出します。前年の88年、米国NASAのジェームズ・ハンセンが上院公聴会で「地球は温暖化しており、原因は炭酸ガスにある」として世界的な反響を呼びました。地球温暖化=炭酸ガス=炭酸ガスを出さない原子力=クリーンエネルギー、という図式が登場したのです。
じつは1988年まで、地球温暖化より地球寒冷化の議論の方が多かった記憶があります。少なくとも80年代前半はそうでした。ケンブリッジ大学の高名な物理学者、フレッド・ホイルは82年に『氷河時代がやってくる』(ダイヤモンド社)を出版し、各国でベストセラーになっています。したがって炭酸ガスによる温暖化の議論は驚きをもって迎えられました。
89年にはフランスのミッテラン大統領が「原子力は炭酸ガスを出さないクリーンエネルギーだ」と主張し始めています。日本でも88年版「原子力白書」(原子力委員会、89年出版)で、原発は温暖化への抑止になる、と初めて書いています。
このころから日米仏などの原発推進国で「炭酸ガスを出さないエネルギーは原子力」をPRするようになりました。エイモリー・ロビンスの定義はどこかへ消えてしまったのです。
原子力推進の総本山IAEA(国際原子力機関)のハンス・ブリックス事務局長(当時)の面白い発言が当時の新聞に掲載されています。
「『大気汚染問題がこんなにホットになって、驚いている』――国際原子力機関(IAEA)のH・ブリックス事務局長は、複雑な思いを味わっている。つい最近までソ連のチェルノブイリ原発事故(86年4月)の後遺症で世論の冷たい風にさらされていたのが、一躍大気を汚さないクリーンエネルギーとして原子力に関心が集まったからだ」(「日本経済新聞」1989年7月21日付)。
IAEA事務局長でさえ驚く逆転現象だったのです。