日本はまだまだ
マーケティングの力を活用できる

 昨年6月、コトラーは10年ぶりに来日し、日本マーケティング協会などが主催した「コトラー・カンファレンス2013」で講演しました。「マーケティングの未来 成熟市場で日本企業がとるべき8つの方法」と題したこの講演のなかで、コトラーは日本の企業がマーケティングの力を十分に活用できていないこと、意思決定のスピード遅い点などを指摘し、CMO(Chief Marketing Officer=最高マーケティング責任者)設置の重要性を訴えました。

 かつてコトラーのマーケティング理論から学んで実践に移したソニー、パナソニック、ホンダなどは独創性に富んだ製品をいくつも世に送り出し、世界中の消費者の支持を集め、米国企業を震え上がらせました。そのような成功体験を共有しているコトラーにとって、日本企業の今日の低迷は「戦略なきマーケティング」の結果と映るのかもしれません。

 冒頭で引用した『コトラーのマーケティング講義 基本コンセプト300』はマーケティングについて300の質問が提示されています。それらについてコトラー教授が回答を述べる形式で編集されていますが、日本の読者のために301番目の質問「日本企業のマーケティングの強みと弱みは何でしょうか?」もしています。教授の回答は以下のとおりです。

 一方、弱みが何かと考えてみると、それは日本がかつて通ってきた同じ道筋を追撃してきている新たな競争相手たちの出現だろう。たとえば韓国のサムスンは、その卓越したデザインならびに低廉な価格で、急速にソニーと同じ競争の場に立とうとしている。さらには中国企業もまた、同じ道筋をたどろうとしている。いったんグローバル・ブランドを確立した市場に受け入れられたならば、中国はそのコスト競争力をもとに莫大な利益を獲得するようになるだろう。

 このことが示唆するのは、日本企業は信頼を守るための高い品質を維持しながら、今後いっそう、中国に製造拠点を移転しなければならないということである。日本企業は海外で国内同様の品質レベルを実現できるか、そして同時に国内において十分な労働市場を提供できるか。このことが、日本の企業と社会にとってもっとも深刻な問題の1つである。(225ページ)

 成功するためのマーケティングの正解は1つではない――。『コトラーの戦略的マーケティング』のなかで、コトラーはそう述べています。そして企業としてどこよりも速く学習し、すばやく変化を遂げる能力だけが唯一の競争優位なのだ、と。

(次回更新は3月6日です)


◇今回の書籍 44/100冊目
『コトラーのマーケティング講義――基本コンセプト300』

ビジネスマン向けに解説した<br />「マーケティングの神様」による入門書

マーケティングの使命とは? マーケティングの今後のメガ・トレンドとは? ブランド・マネジャーの成功要因とは?――ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院のマーケティングの権威、フィリップ・コトラー教授がマーケティングに関する300の質問に答える。マーケティングの基本概念を網羅した、ビジネスマンが気軽に手に取れる解説書。

フィリップ・コトラー:著
木村達也:監訳
有賀裕子:訳

定価(税込)2,310円

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◇今回の書籍 45/100冊目
『コトラーの戦略的マーケティング』

ビジネスマン向けに解説した<br />「マーケティングの神様」による入門書

マーケティング界の第一人者が初めてビジネスマン向けに書いた電子マーケティング時代の戦略と戦術。マーケティングは企業にとっても利益の上がるシステムであると説く。

フィリップ・コトラー:著
木村達也:訳

定価(税込)2,310円

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