都市に住む6割の「孫の力」が
田舎を生まれ変わらせる

馬場 私がちらほら聞く、地域を負っている若手の本音は、「田舎は窮屈だ」「田舎はみんな顔を知ってるから…」みたいなものが多いんですけど、一人で生きている人なんかいなくて、一人で生きてる気になれるのが都会だと思うんです。

 現実的には、誰もが親や、その親や、地域の住民や、土地も含めた大きなうねりの中で生きているということを実感できる豊かさが田舎にはあるというのを、どうやって伝えたらいいんだろうかと考えているんですよね。私は里山に東京から人を呼ぶようなイベントもやっているんですけど、このことをイベントを通して伝えるのは難しいんですよ。山崎さんに相談なんですけど、イベントって楽しいじゃないですか?

山崎 うん。

馬場 房総に来てくれた人は「わぁ、いいところですね。来てよかったです。また来ます」って言ってくれるの。でも、そこから一歩先に行きたいと思うんだけど、どうすればいいんでしょう。本1冊書いてもなかなか伝わらないのが現実ですよね。それでも伝えたいと思っているんです。先生、なんかいい例とかありますか?(笑)

山崎 そうね。まぁ、イベントじゃなかなか伝わらないっていうのは、そうかもしれませんね。僕も、まだあんまり読んでないですけど、『孫の力』っていう雑誌がありますよね。あれ、ちょっと気になってるんですよね。僕らが感じている「孫の力」と、もしかしたら近いのかもしれないなと。

 農村出身の団塊の世代というのは、「ここでは食っていけないから、都会に出なさい。公務員か大企業に入りなさい。戻って来ても仕事はないよ」ってずっと言われてきたんです。で、都会に出た子どもたちは、例えば多摩ニュータウン辺りに住むんですよ。大阪でも、千里ニュータウンあたりです。今やオールドタウンって言われてますが、かつてはニュータウンと呼ばれたその場所には、35歳で35年ローンを組んだ、同じようなタイプの人たちがたくさん住んでいて、今その人たちが70歳くらいになってるんですね。

 この人たちの頭にある田舎はしがらみが多くて、あまり戻りたくないところなんです。そこからようやく抜け出して、隣近所と付き合いがない新しいニューライフを、核家族で送ることができたという感覚があるんです。

馬場 ニューライフ…(笑)。

山崎 でも、彼らの息子や娘たち、つまり、農村に住むお父さんたちの世代から言うと、孫たちはですね、お盆の時や正月だけ帰って、地域の近所のおじいちゃん、おばあちゃんたちも優しくしてくれたから、田舎のいいところばっかり見て育った人たちなんです。ニュータウン育ちの彼らは今、30歳から40歳くらいになっていて、まさに僕らがその世代ですよね。

馬場 そうですね。

山崎 僕らが「孫の力」で、おじいちゃんの地元を考えた時に、あんまり悪いイメージはないはずです。自分の父親たちは、そこはもう抜け出すべき対象だったんですけれども、僕らは、むしろ楽しい場所という印象を持っている。

 自分の父親たちが戻るということになれば、またしがらみの中にグーッと取りこまれるんですけれども、孫たちがIターン的に、おじいちゃん・おばあちゃんがいるところに引っ越してきて、一世代飛ばして何かを引き継いでいくっていうことになると、一応その系統の中に入れるんですね。

 おじいちゃんたち世代も、息子や娘に「お前ら、出ていけ」「こんなところに戻ってきたって何にもない」と息子や娘たちを出しちゃって、ちょっと今、寂しくなってきている時に孫が戻って来たら、集落みんなでその人たちを大事にしようっていう機運ができてるんですよ。

馬場 そうか、なるほどね。