コスメが男性相手に、お菓子が大人に、なぜ売れてしまうのか? 商品を差別化するために、ターゲットを細かく設定しますが、それはチャンスを狭めているだけです。いろいろな人に使ってもらえる可能性があるなら、ある指標を有効に使いましょう!
7月17日発売『セールスは1分で決まる!』連載第4回。

女性向け商品が男性相手に売れてしまうのはなぜ?

売れる人はターゲットを設定しない

 商品を販売するためのトークにはいろいろな方法があります。なかでも、お客様が気にする「モニター結果」は有効です。他の人が使ってどうだったのか。これから商品を買おうとしているお客様にとっては大切な情報です。

 ターゲットとなる30〜50代の女性を対象にモニターテストを行ったとします。ターゲット層の女性はそれを聞いて、「同じ年齢層の人がモニターしているから安心」と感じて商品を購入するものです。

 私の場合は、全世代に使えることを前提とします。

 今の世の中、差別化ばかりに目が行きがちですが、全世代で売れるための戦略を考えるのです。

 私の会社で扱っているスイス製の「ビタクリーム」は30代から50代の女性でのモニターテスト、老人ホームでの70代以上の方でのモニターテスト、そしてアルプス登山家たちの男性・女性でモニターテストをしています。

 私はこのアルプス登山家たちのモニターテストはすごくおもしろい、十分なセールストークになると確信しました。

「このクリームは、あのアルプスでモニターテストしているんですよ」
「え〜、それは珍しいですね」
「アルプスは標高が高いですよね。紫外線がダイレクトに攻撃してきます。さらに風も強くて空気が乾燥しているんですよ」
「確かに、山に登る方は肌が赤くなってすごく乾燥していますよね!」
「そうなんです。そんな過酷な環境の中でモニターテストをしていますから、日本の紫外線、乾燥にもぜひおすすめですよ」

 化粧品と登山家…一見、まったく関係ないと思われるモニタリングですが、これは大成功でした。

 お客様は、40代、50代が中心でほぼ女性です。登山をする方々ではありません。自分にあてはめることはできません。

 それなのに、大反響だったのはなぜでしょうか。

 お客様のターゲットと違うモニタリングでも、お客様は、
「アルプスの過酷な環境でテストして良い結果が出た商品なのだから、日本に住んでいる自分が使ったら間違いなくしっとりするだろう」
「そんなすごい環境でテストしているんだから、良い商品に違いない」
と思ってくれたのです。

 このモニター訴求の反響がとても大きかったので、私は自分でも実際にスイスに行き、アルプス山脈に登って同じようにモニタリングをしてきました。

「アウトドアが苦手で富士山にも登ったことのない私がアルプスに行ってきましたよ。ビタクリームをたっぷりつけて登りました。7月だから紫外線は痛いくらいに強く、風が吹くと氷河が顔に吹きつけます。想像以上に過酷な環境でした。でも下山した後もお肌はしっとり」
と話をすると、ますます注文が殺到しました。

 ターゲットと違うモニタリングをあえてトークに混ぜたことで、お客様の層は、下は子どもから上は90代までとなり、さらに男性にも愛用されるようになりました。

 そして、まとめ買いが行われたのも、家族のために購入する人が増えたからです。

「アルプス登山家たちでモニターテストをしているならうちのお客様にも!」と日本大手アウトドアブランドのモンベル(mont-bell)のショップでも販売されるようになりました。

 もともと「30〜50代の女性がターゲットの中心」である化粧品のモニタリングを、「年齢」「性別」で行わず、「環境」で行ったことで、すべてのお客様の層に届いたのです。

「冬は乾燥するから使おう」
「夏は紫外線が強くて肌にダメージを与えるからケアしよう」

 こうしてビタクリームは年間を通してたくさんのお客様に愛用されるようになりました。

お客様は「年齢」を自分にあてはめるのではなく、「環境」を自分にあてはめたのです。

 同じような商品は身近にあります。

 アウトドアブランドのカナダ・グース(CANADA GOOSE)のダウンジャケットは、南極探検隊が使っているという触れ込みで、男女関係なく愛用されています。

「地球で一番寒いと想像させる地域で使われているなら」という心理が働いているからです。

 また、お菓子は「子どもがターゲット」と考えたままだと、置き菓子「オフィスグリコ」は生まれなかったでしょう。

 江崎グリコが小学生から60代までの数百名を対象に調査を行った結果、お菓子を食べるシーンの1位が「家庭」で約70%、2位が「オフィス」で約20%だったそうです。

 これも食べる「環境」を調査したから分かったことです。

 このように、本来狙っているターゲット層と異なる「環境」に置き換えたモニタリングは、ターゲット層を大きく広げることになるのです。

 ターゲットをあえて限定せず、全世代に使ってもらうと考えると、おもしろい発見があるかもしれませんよ。

POINT

商品のターゲットを狭める必要はありません!
年齢・性別ではなく、環境にあてはめることで、
全世代に愛される商品に変えましょう!