『週刊ダイヤモンド』8月29日号の第一特集は「狂乱決算「7割経済」の衝撃」です。巨額赤字決算が続出しています。新型コロナウイルスを端緒とするビッグクライシスは、一過性の危機ではなく、バブル崩壊後の不良債権処理を想起させるバランスシート(BS)不況に陥りそうな雲行きです。「7割経済=超縮小経済」の下では、負のレガシーを断ち切る「構造改革」と大胆な「戦略投資」を同時に進められるストイックな企業のみが生存を許されます。上場企業2560社を対象に、大恐慌デスマッチで脱落する企業440社と浮上する企業110社をあぶり出しました。同号では、巨弾特集「最強トヨタ激震!」も掲載。トヨタのアキレス腱となりかねない「超」中央集権人事、系列崩壊、テスラ逆転の背景などを徹底分析しています。

本当の危機はこれから
バランスシート不況がやってくる!

 ANAホールディングス▲1088億円、日産自動車▲2856億円、出光興産▲813億円、日本製鉄▲421億円──。2021年3月期第1四半期(4〜6月)決算では、日本のリーディングカンパニーが相次いで巨額赤字へ転落した。

 新型コロナウイルスの猛威は企業業績を直撃し、文字通り、狂乱決算の様相を呈している。

 大手企業は金融機関に緊急融資を要請してキャッシュを確保。同時に、多くの企業が大幅な固定費カットによる利益の捻出策に着手している。資金調達とコスト削減という“危機時の王道”の2点セットで、損益計算書(PL)の体裁を整えようとしているのだ。

 しかし、である。本当の危機がやって来るのはこれからだ。ある大手銀行幹部は「自動車、重厚長大、航空、不動産などの業種に属する企業が、バランスシート(BS)不況に陥るリスクがある」と懸念を表明する。

 日本企業は二つの“厳しい現実”に向き合わねばならない。

 一つ目は、当分のあいだ、コロナ前の経済状況には戻らないということだ。コロナ以降は、多くの産業において「7割経済=超縮小経済」になるといわれる。例えば、20年の世界の自動車市場は「2割減」となる見通しだし、リアル店舗を主体とする外食や小売りのようなBtoC(消費者向け)ビジネスはさらに落ち込みが激しい。売上高が損益分岐点(売上高=費用)を下回れば赤字に転落し、その損失がBSを毀損する。

 振り返れば、91年のバブル崩壊と景気後退により、企業の売上高が激減した後に起こったのが不良債権処理だった。商社、小売り、建設など構造不況業種は、雇用・設備・債務の「三つの過剰」を抱え、大リストラと業界再編成を迫られるという塗炭の苦しみをなめたのだ。7割経済の到来で、またその阿鼻地獄が待っている。

 この30年で構造改革に着手できなかった企業や業界は、「平成のレガシーコスト(負の遺産)」を一気に処理しなければならない。

 二つ目は、テクノロジーの革新的進化や、米中対立など地政学リスクの高まりにより、社会や業界のトレンドが激変するという現実だ。全業種でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速していることからも、既存ビジネスの激変は避けられない。

 「7割経済+トレンドの激変」に対する「耐久力」のある企業には4つの条件がある。

「7割経済+トレンドの激変」に
打ち勝てる企業の4条件

 以下が、4つの条件だ。

 ・本業でキャッシュをある程度稼いでいる
 ・負のレガシー(遺産)を断ち切る構造改革を実行している
 ・同時に、全く新しい領域へ戦略的に投資をしている
 ・戦略投資の元手を借り入れに依存していない

 つまり、後ろ向きの構造改革と前向きな戦略投資を同時に進められるような超ストイックな企業しか、この乱世を生き残ることはできない。キャッシュ確保と固定費ダウンで金を貯めこんで身を縮めているだけでは、超縮小経済に比例するように企業の成長がストップしてしまうことだろう。

 こうした激変期には、技術や資産など、これまで“強み”だったレガシーが“弱み”になりかねない。長い歴史を持つ大企業が、現状を否定して新たな戦略投資に踏み切ることは至難の技だ。

 ダイヤモンド編集部では、経済縮小とトレンド激変に打ち勝てるコロナ不況「耐久力」企業ランキングを作成。東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストの協力を得た。詳細については「ランキングの作成方法と見方」に譲るが、五つの指標で総合的に評価を行った。

 (1)キャッシュ増減率
 (2)営業CF(キャッシュフロー)創出力
 (3)成長投資継続力
 (4)借入依存度
 (5)みなし稼働率

 キャッシュの使い道や借入依存に着目した独自指標で上場企業2560社を総点検。大恐慌デスマッチで脱落する企業と浮上する企業をあぶりだした。

「コロナ耐久力」企業ランキング
ワースト1位は電機機器メーカー

 上場2560社を対象とする総合ワーストランキングの1位は、AV機器や生活家電の製造を行うピクセラだった。

 ピクセラ は、キャッシュが8割も減少していたり、“みなし稼働率”がリーマンショック以降のピーク時の3割程度に落ち込んでいたりと、厳しい情勢が続いている。

 2017年末は、有価証券報告書にそれまで記載されていた「継続企業の前提に関する注記」が解消されたところだった(それまでは5期連続の営業損失になるなど、企業の継続性に疑義が唱えられていた)。だが、コロナショックの影響をまともに受けて、中国からの部品・製品の供給が遅れるなど、再建計画に大きく狂いが生じているようだ。

豪華!特大特集の二本立て
渾身のトヨタ特集にも注目

 『週刊ダイヤモンド』8月29日号は「狂乱決算「7割経済」の衝撃」と巨弾特集「最強トヨタ激震!」という産業特集二本立ての豪華バージョンです。

 自動車部品や鉄鋼など製造業において、再編機運が急速に高まっています。業界の勝ち組企業、商社、ファンドなどのゲームチェンジャーが身売り企業の買収に名乗りを上げ、旧来型の序列を切り崩しながら業界の勢力図を塗り替えようとしています。

 『狂乱決算「7割経済」の衝撃』特集は、そうした業界再編成に切り込んだ生ネタ満載に盛り込んでいます。

 また、コロナ不況「耐久度」企業ランキングでは、総合ワースト50社&ベスト50社に加えて、自動車・自動車部品や電機・精密、小売り・外食など11業種について、脱落するワースト40社、浮上するベスト10社も掲載しています。

 また、巨弾特集「最強トヨタ激震!」では、今や競合を寄せつかない王者となったトヨタ自動車の問題点に迫ります。コロナショックがもたらす「超縮小経済」の下では、トヨタの競争力の源泉だった“強み”が“弱み”へ変わるリスクも生じます。原価低減に貢献してきたサプライヤー構造や内燃機関を主軸とする技術こそ、トヨタのアキレス腱となり得るのです。最強の王者だからこそ抱える葛藤をリアルに描いています。