海外の節税#16Photo:PIXTA

海外に資産を移し、合法的に節税する鉄板の方策が海外移住だ。だが、年の半分、183日間を海外で過ごしても「(日本の)非居住者」と認定されないケースもある。特集『海外の節税 富裕層の相続』(全21回)の#16では、その微妙な一線について、20年近く「居住者/非居住者の判定」という相談を受けてきた経験を元に解説していこう。(税理士 柳澤賢仁)

海外移住で税金対策を狙うも
曖昧な居住者と非居住者の一線

 富裕層の中には、海外に移住することによって税金対策をする人が少なくない。だが、なぜ海外移住が税金対策になるのだろうか。

 大きくは、課税のフレームワークの違いにある。個人の所得に対して課税する所得税法は下記の構成になっており、日本に住んでいる「居住者」(第2編)と、海外に居住する「非居住者」(第3編)というふうに課税の体系が異なっている。

第1編 総則
第2編 居住者の納税義務
第3編 非居住者及び法人の納税義務
第4編 源泉徴収
第5編 雑則
第6編 罰則

 日本の所得税法では、居住者はいわゆる「全世界所得課税方式」といって、国内外のどこで稼いでも日本で課税される。一方、非居住者はいわゆる「国内源泉所得課税方式」といって、日本国内で稼いだ所得のうち一定のものに対してのみ日本で課税される仕組みだ。

 つまり、現役バリバリでもうけまくっている富裕層の場合、日本の居住者だと最大55%(所得税率45%、住民税率10%)の税率で課税されるのだ。だが、例えばシンガポールに移住して日本の非居住者となり、日本と同じように稼ぐとどうなるか。シンガポールで得た所得は、日本から見ると国外源泉所得となり、日本では課税が生じない。そして、シンガポールは軽課税国のため、十数パーセントの所得税で済むというわけだ。

 筆者はこの「居住者/非居住者の判定」というニッチな分野でもう20年近く仕事をしており、かなりの数の相談に対応してきた。なぜ、これほどまでに同じような相談が繰り返し来るのかというと、日本の所得税法上、居住者と非居住者の判定基準が非常に曖昧だからだ。

 曖昧故に、誤った情報も世の中にあふれており、混乱に拍車を掛けている。次ページ以降では、居住者と非居住者の間に横たわる曖昧な一線について、その曖昧さ故に起きてしまう実際の紛争事例などを交えて解説していこう。