
瀧口範子
第32回
「アマゾンが新型電子書籍端末のキンドル2を発表」――。2月9日のアメリカのビジネスメディアは、この話題でもちきりになった。第一世代からデザインはグッとおしゃれになり、軽量小型化も実現。ダウンロードできる書籍数も3倍近い23万冊に増えた。だが、キンドル2の肝はそこにはない。会見でジェフ・ベゾスCEOが示唆したビジネスモデルにある。それは、メディアとITをつなぐ未来のエコシステムの中核にアマゾンが陣取るということだ。

第31回
1月、IBMは立て続けにビジネス界を驚かせた。最初は、2008年第4四半期の業績発表。この不況でIT業界を含むほぼ全産業で企業収益が悪化する中、IBMは純利益が前年同期の40億ドルから12%増の44億ドルになったと発表、2009年の見通しも明るいと強気に出たのだ。しかし、その数日後、2800人とも4000人とも言われるレイオフが同社で行われているという報道が世界を駆け巡った。好調な業績の中でなぜ?このふたつのニュースは実は無関係ではない。

第30回
米国のブロガーやギークたちの間で、パーム社の新型スマートフォン「Pre(プリー)」が注目を集めている。iPhoneやブラックベリーを超えたという前評判は本当なのか。

第29回
昨年11月初め、サンフランシスコにあるモスコーネ・コンベンションセンターは、9500人の聴衆で埋め尽くされていた。ステージの上では、腰を振る小さなハワイアン人形が多数テーブルの上に並べられ、観客の中から壇上に呼び出された人々が嬉しそうに人形を受け取って笑顔を振りまいている。まるで古めかしいクイズ番組の授賞風景のようだが、実はこれはセールスフォース・ドットコムの年次会総「ドリームフォース」での一風景である。

第28回
アメリカやイギリスでレストランを予約したいならば、オープンテーブルを利用しない手はない。登録店は1万を超え、昨年7月時点で延べ7500万人の利用者を数えた化け物サイトである。

第27回
「2009年の運営費600万ドル(約5億5200万円)のために、寄付をお願いしたい」。昨年、そんな嘆願文をサイト上に載せたオンライン百科事典のウィキペディア。内容を書き込むのも、編集するのもボランティアばかり。なぜそんな大金が必要なのか。人々の懐疑心を反映してか、トップページに表示される寄付金メーターは、12月に入っても目標額の半分ほどで止まったままだった。ところが、創設者ジミー・ウェールズが署名入りのレターを掲載して寄付を求めると、瞬く間に、その目標をクリアしてしまったのだ。

第26回
マイクロファイナンスとは、途上国向けの少額金融のこと。先進国では小さな金額でも、途上国では店を構えるほどの資金に化けることもある。Kiva.orgもそんな所得と物価の格差を利用した社会貢献ビジネスである。仕組みはこうだ。Kiva.orgのサイトに行くと、商売人の写真が並んでいる。併記されているのは、事業内容や必要資金の内訳。たとえば、ガーナで縫製業を営むハシュメド・バーバ氏は、400ドルを募っている。同氏は7ヵ月で返済するとサイト上で約束しており、すでにKiva経由で必要額の19%の資金が集まったところだ。

第25回
新旧のメディアが等しく広告収入の激減に喘ぐ中、ひとり気を吐くインターネット新聞がある。ギリシャ生まれのセレブがアメリカでおこした「ハフィングトン・ポスト」だ。

第24回
インターネットを使って政治を変える。これは、先の大統領選でバラク・オバマがしっかりと証明したコンセプトである。数多の“小さな市民”が草の根運動を起こし、少額の寄付をする。「塵も積もれば山となる」アプローチで、オバマは最終的に7億5000万ドルの選挙資金を得た。スタンフォード大学教授のローレンス・レッシグも今、ギーク(オタク)たちの協力を得て、同じような動きを起こして注目されている。その運動の名称は「チェンジ・コングレス(議会を変えろ)」。目的は、政治から腐敗をなくすこと。その手始めは、議員たちが怪しいロビイストや政治圧力団体から政治資金を受け取らないようにすることだ。

第23回
アメリカでは、あのYouTubeをそっちのけにして、1年前に登場したビデオ・サイト「Hulu.com」が話題になっている。Hulu.comとYouTubeの大きな違いは、YouTubeがユーザー投稿によるビデオが中心になっているのに対して、Hulu.comはテレビ局のニュースやドラマ、映画会社の人気作品などプロが製作したビデオが無料で見られるという点だ。著作権問題やDVDなどの二次的ビジネスでがんじがらめになっているはずのこうしたビデオが、Hulu.comの登場ですんなりと見られるようになったことに最も驚いているのは、実は一般ユーザーだろう。

第22回
ジェリー・ヤンのヤフーCEO辞任で、マイクロソフトが再びヤフー買収交渉のテーブルに戻ってくるとも期待されたが、それもマイクロソフトのステーィブ・バルマーCEOが言下に否定した。あれだけのインターネット・ブランドがすっかり路頭に迷っているとは……。だが、ここでは敢えて明るい材料だけを並べてみよう。実はアナリストらの間でも、ヤフーは十分なリソースを持っているにも関わらずそれをマネタイズ(換金化)する術に欠けているだけ、という声が多い。

第21回
9月、グーグル共同創設者のセルゲイ・ブリンが新しく始めたブログで告白した。「遺伝子を調べたら、僕が今後パーキンソン病を発病する可能性は20~80%」。 実はこの直前、ブリンの母が同病を発病。これを受けて、ブリンは自身の遺伝子をテストしたところ、結果は平均より高いと出た。ただし、この告白はグーグル株主へのリスク情報開示というよりは、ブリンの妻が共同創設した会社「23andMe」の宣伝に役立ったことだろう。23andMeは、現在世界中で次々と生まれている消費者向け遺伝子テスト会社のひとつである。

第20回
アドビシステムズと聞いて、どんな企業を想像されるだろうか。たいていは、ドキュメントを美しく印刷したりPDF化する技術を生み出した企業といったところだろう。あるいは、ウェブサイトや映像のクリエーターが使う複雑なツールを開発するソフトウェア企業だと思われるだろうか。だが、現在のアドビはツール開発から始まったフットプリントを今やビジネス・プロセスにまで拡大して、企業内外で使われる企業関係管理ソフトを金融業界、政府関連組織、製造業、生物化学といった業界に提供しているのをご存知だろうか。

第19回
金融危機の影響は、アメリカンドリームを支えるベンチャーの世界にも押し寄せている。VCの活動縮小に伴い、生活費も負担してくれるインキュベータに起業予備軍が殺到しているのだ。

第18回
安いけど、惨めじゃない。米小売大手コストコのブランドを、端的に表現すれば、そういうことだろう。そのユニークな地位ゆえに、折からの消費不況に強い耐性を発揮しそうだ。

第17回
ここに面白い統計がある。昨年マードックに買収されたウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、買収前と買収後の3ヵ月間でどのように一面の掲載記事を変えたかという調査だ。それによると、大きく減ったのがビジネス記事。逆に増えたのが、国際問題と政治関連の記事だ。実はこの変化はマードックが周囲に明かしていた計画と一致している。WSJを経済専門紙という位置づけから離陸させ、ニューヨーク・タイムズに勝負を挑める一般紙に衣替えするというものだ。

第16回
日本でスマートフォンと言えば、iPhoneを連想するかもしれないが、アメリカではRIM社のブラックベリーこそ代名詞である。そのRIMが新たな戦略商品を間もなく投入する。

第15回
去る9月21日から5日間、サンフランシスコのモスコーネ・コンベンションセンター周辺は、オラクルのユーザー会議「オープンワールド」に参加する4万3000人の人々でにぎわっていた。数年前まで、オラクルと言えばデータベース開発企業という比較的地味な存在だったが、ここ数年の間にまったく異なった様相の巨大企業に変身した。その背景には、過去5年で50件という怒涛の買収戦略がある。

第14回
旅行業界に異変が起きている。航空運賃、ホテル代の徹底比較を可能にする検索エンジンが台頭。既存のオンライン旅行代理店の商売を奪い始めているのだ。その代表格がカヤックである。

第13回
世に数多ある医療・健康情報サイトの中で、最も早いペースで成長しているのがウェブMDだ。グーグルに買収を仕掛けられたとも言われる同社の躍進の秘密を探った。
