
酒井才介
値上げが広がることで家計の負担増は22年度9.6万円、23年度もさらに5.1万円が見込まれる。一方で春闘賃上げ率は2.6%程度、名目賃金の伸びは1.3%程度にとどまり、実質所得の低下は依然、続く見通しだ。

サービス業は全国旅行支援や水際対策緩和で需要の回復加速が見込まれるが、人手不足が足かせだ。人件費引き上げなどのコスト上昇を価格転嫁できない業態や企業は逆に倒産の懸念が高まる。

円安と政府の水際対策緩和はインバウンド需要回復に追い風だ。だが中国のゼロコロナ政策継続やオンライン会議普及によるビジネス出張減少もありコロナ禍前への回復は2025年以降になる。

コロナ感染の再拡大と歴史的な物価高騰が消費の逆風になっている。感染は8月初旬にピークアウトが見込まれるが、家計の体感物価は消費増税時並みに高騰しており消費回復は鈍いものになる。

物価高問題では黒田日銀総裁の説明とは裏腹に家計の「値上げ許容度DI」はむしろ低下しており日用品の値上がりで低所得者を中心に節約志向が高まる。景気減速のリスクが現実味を帯びる。

円安は今年前半は1ドル=130円台半ばまで進む可能性がある。「企業の7割、就業者の6割」が円安のマイナス影響を受けると試算され、米国のインフレやウクライナ情勢による円安加速への注意が必要だ。

賃金の伸び悩みが日本経済低迷の大きな要因であり、人的資本投資の拡充が「成長」と「分配」の同時達成に向けた鍵だ。成長率を欧米並みに高めるには官民で年間4兆円程度の投資が必要だ。

資源高・円安の同時進行で2022年は1世帯当たり約7.3万円の家計負担増が見込まれる。政府の物価高対策は低所得世帯の支援にはなるが、物価上昇への「耐性」が弱くなっている日本は構造対策が必要だ。

日銀は円安が日本経済にはプラスとするが、円安メリットは希薄化し、独自試算では10%の円安で1.8兆円の損失が貿易取引で発生する。円安と物価上昇、貿易赤字拡大のスパイラルが懸念される状況だ。

ロシアへの経済制裁の強化・長期化のシミュレーションでは、国際商品市況が50%程度上がれば、日本の所得流出は19.4兆円。ロシアの資源輸出全面停止となればユーロ圏は10%の生産減少が見込まれ、世界経済は少なからずの「ブーメラン効果」に見舞われる。

日用品の価格上昇は低所得世帯への打撃が大きく、消費増税2%超に相当する負担増になる。家計支出を切り詰めざるを得ず、コロナ禍でも目立った教育支出減少による教育格差が広がる恐れがある。

オミクロン株の感染拡大は2月中旬にピークに達する。後半以降に収束に向かうが、サービス消費の落ち込みや自動車などの生産停滞で1~3月期のGDPはマイナス成長になる可能性が高い。

世界的な商品市況の高騰のもとでも日本の消費者物価の伸び率は低いままだが、企業物価は約40年ぶりの上昇だ。物価は本当に上がらないのか。上がらないことで安心していいのか。

コロナ収束で期待されるリベンジ消費は外食、旅行、宿泊などが中心だが、「安全・安心」と「プチ贅沢」の双方のニーズを満たす高価格帯の施設に需要が集中するとみられる。

緊急事態宣言の再延長で4~6月期は2四半期連続でマイナス成長になる。7~9月期も回復ペースは緩慢で変異株による感染再拡大次第では、3四半期連続のマイナス成長もあり得る。

新型コロナで緊急事態宣言が再発令されたが、感染状況を基にしたシミュレーションでは感染減少ペースは緩やかで、2月上旬には首都圏で医療崩壊状態になり、特措法改正で規制が強化されても宣言の解除は3月末になる。

新型コロナウイルス感染拡大の影響が長期化した場合、宿泊や外食などの対人接触型サービスの消費はコロナ前に比べ3~4割減の落ち込みが続く。倒産増加や雇用者所得の減少は必至で、業種転換や転職支援に政策をシフトする必要がある。

超金融緩和で景気もいいのに消費停滞が続くのは、家計の「体感物価」が上昇しているからだ。単価を上げないで容量を減らす「ステルス値上げ」にも敏感に反応し節約志向が強まる。
