ガブリエル「ドイツの精神(ガイスト)は今やアメリカに宿っている!」

ドイツのマルクス・ガブリエルという新進気鋭の哲学者が、アメリカ人のヘーゲル研究者から語られた言葉を、『南ドイツ新聞』のなかで、次のように伝えています。「ドイツの精神(ガイスト)は今やアメリカに宿っている!」

たしかに、今日では、ヘーゲル研究は本国ドイツよりも、むしろアメリカにおいて生産的であるように見えます。しかも、こうした事態は、ヘーゲルに限りません。カントやニーチェも、さらにハイデガーやフランクフルト学派の研究も、今ではアメリカが中心になりつつあります。

それにともなって、ドイツやフランスの大学では、英米系の分析哲学が浸透しつつあるのです。ある人の話ですが、1990年代に解釈学を研究しようと思ってドイツに留学したら、その大学では英米系の分析哲学が精力的に取り込まれ、解釈学の研究は進捗しなかったそうです。その点では、フランスだからポスト構造主義、ドイツだから現象学・解釈学といった棲み分けは、現在では通用しなくなりました。そのいずれも、アメリカで活発に論じられているのです。

そうだとすれば、ドイツの「ガイスト」だけでなく、フランスの「エスプリ(精神と同義)」もまた、アメリカに宿るのでしょうか。この発言をどう評価するかは別にして、少なくとも、哲学研究におけるアメリカの地位、および分析哲学の世界化については、確認しておいた方がいいと思います。

しかし、哲学のグローバリゼーションは、その次のステップに進みつつあるように見えます。20世紀末にいったんアメリカへと向かった哲学の潮流は、21世紀を迎えると、再び逆流し始めています。現在では、グローバル化を受け入れた後で、再び独自の哲学形成に着手しているように思えます。これがどこへ向かうのか、本連載でもその一端でも提示したいと考えています。