リコーもその点は重々承知しているのでしょう。リコーがLED照明の販路の中心にしようとしているのは、OA機器の法人向け販売網です。コピー機、プリンター、複合機などOA機器メーカーは、消耗品の納入や故障発生時のメンテナンスなどで日頃からユーザーと接点を持っています。また、リースの利用も多いのでユーザーの経営状態もある程度把握できる立場にいます。

 多くのユーザー企業では、OA機器の担当者は、照明機器など什器備品の担当者でもあるケースが多く、直接交渉できるというメリットもあります。どんなに名前の知れた大手企業でも、新規で飛び込み営業やテレアポをしてもそうそう簡単に相手の担当者に面談できるものではありません。でも既存の取引業者であれば、新しい商品も割とスムーズに提案まで持っていくことができます。

 この法人向け販売網という既存の経営資源を活用して、LED照明を販売していこうというのが、リコーの流通戦略です。この方法であれば、馴染みのある担当者に商品を直接説明することができますし、テレビCMなどで高い広告宣伝費を使う必要もありません。初期費用を抑えたいというユーザーには、子会社(リコーリース)でリースを提供することで、グループ内での収益機会も獲得できます。パナソニックや東芝などと真正面から戦うのではなく、得意の土俵で勝負することで、新規参入でも充分にやっていける戦略といっていいでしょう。

ランチェスター戦略で見る
弱者の戦略とは

 このリコーの戦略は「弱者の差別化戦略」に位置づけられます。差別化戦略については、いろいろな研究がなされていますが、今回は『ランチェスター戦略』でリコーの差別化戦略を見てみましょう。

 ランチェスター戦略はもともと軍事戦略として提唱されたもので、その後、企業の経営戦略として定着しています。

 ランチェスター戦略は、“強者”の取るべき戦略と“弱者”の取るべき戦略を明確に区分し、それぞれの基本戦略を定めています。軍事戦略で強国が取る戦略と弱小国が取る戦略が違うように、企業経営の世界でも業界の地位によって戦い方が違うというわけです。

 さて、リコーですが、この市場では強者でしょうか、弱者でしょうか。OA機器の業界ではトップを争っていますので、立派な“強者”の位置づけになります。でも照明機器の業界では新規参入で実績もない状況からパナソニックや東芝という“強者”に戦いを挑んでいく“弱者”の立場です。

 ランチェスター戦略で弱者がとるべき戦略をまとめたものが次の表です。

 この中でリコーが実際に取ろうとしている戦略は①、③、④です。