シリコンバレーに拠点を置くアップル、グーグル、フェイスブック、エアビーアンドビー、ウーバー……といった企業は、どうやって次々と大きなイノベーションを起こしているのか? 新刊『シリコンバレー式 最高のイノベーション』では、22ヵ国でスタートアップを支援するインキュベーター&アクセラレーター会社のCEOである著者が、シリコンバレーで起きているイノベーション成功の秘密を初公開! 小さなアイデアが大きな変革をもたらし、世の中を一変させるプロセスを、多くの実例を紹介しながら解き明かす。起業家、企業のオーナー、ビジネスパーソンを問わず、あらゆるビジネスに応用できるイノベーションのヒント。本連載では、その基本中の基本である「小さく、少なく始める」コツについて10回にわたって紹介していきたい。
アポロ13号の締め切り力
[著者] スティーブン・S・ホフマン
ファウンダーズ・スペース社代表、シリコンバレー業界団体組合議長、ニューメディア評議会理事、インタラクティブ・メディア・アカデミー創設者
カリフォルニア大学でコンピュータ工学の理系学位を取得した後、南カリフォルニア大学でシネマテレビジョン・プロダクション美術学修士号を取得する。その後、さまざまな業界や職種に携わり、シリコンバレーでベンチャーキャピタルによるスタートアップを数社起業した後、起業家や社内起業家の支援を目的にファウンダーズ・スペース社を設立。現在、世界22ヶ国に50を超えるパートナーを持つ世界的アクセラレーターである。 [訳者] 関 美和(せき・みわ)
翻訳家、杏林大学外国語学部准教授
慶應義塾大学卒業後、電通、スミス・バーニー勤務を経て、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得。モルガン・スタンレー投資銀行を経て、クレイ・フィンレイ投資顧問東京支店長を務める。主な翻訳書に、『ハーバード式「超」効率仕事術』『ファンダム・レボリューション』(共に早川書房)、『シェア』『MAKERS』『ゼロ・トゥ・ワン』(いずれもNHK出版)、『Airbnb Story』『「おカネの天才」の育て方』(共に日経BP社)などがある。
試験が近づくと、学生は先送りをやめてきちんと勉強しなければという気分になる。
目の前のテストのおかげで学生の気持ちが刺激され、そうでなければ勉強しない学生が教科書を開いて学ぼうとする。
数週間、または数ヵ月間の遅れを取り戻そうとして、徹夜で勉強する。
締め切りの力を表す究極の例が、アポロ13号の有人月飛行だ。
ミッションの途中で爆発が起き、空気清浄システムが破損した。
NASAの地上チームが数時間のうちに解決策を見出さないと、飛行士たちは死んでしまう。
この極度に厳しい締め切りの中で、エンジニアと科学者が必死になって考えつく限りのあらゆる手段を試し、空気清浄システムの修復に努めた。
そして、最後の最後になって、原始的な解決策を思いつき、フラフラになった宇宙飛行士がそれを実行した。
それがうまくいき、飛行士は命拾いした。
これは、不可能に思える状況でも、必要に迫られればチームがあっというような解決法を思いつく好例だ。
企業の中でも締め切りが一般的に効果を持つことを示す例が〈IDEO〉だ。
IDEOは、アップルのマウス第1号をデザインしたことで有名な、革新的デザイン企業だ。
ロボット、医療機器、家電、自動車、おもちゃなどのデザインコンテストで何度も受賞し、すばらしい評価を得てきた。
彼らは3ヵ月かそれより短い締め切りを設定する。
クリエイティブな力を引き出すには、時間のプレッシャーが欠かせないという。
締め切りは、メンバーがその意味を理解していなければ効果はない。
言い換えれば、時間のプレッシャーは、きちんとした理由のある前向きな挑戦でなければならないということだ。
比較的短い時間でプロジェクトを完成させることがなぜ成功につながるのかを、チーム全員が理解していなければならない。
理由もなく急かされているとメンバーが感じたら、逆効果だ。
創造性が刺激されず、意味のない負担になってしまう。
IDEOでは、締め切りはクライアントのためだ。
クライアントは1年も待ってくれない。
6ヵ月も待てないクライアントもいる。
クライアントはプロダクトを世に出す必要があり、すぐに結果が出ることを期待する。
その挑戦が前向きでかつ必要なものだから、IDEOのチームは明確な目標に向けてやる気になれるし、それが集中力と創造性を増幅させるのだ。