そのとき、廊下を急ぎ足でやってくる音がする。

 総務省から派遣されている男が入って来て、村津のところに行った。

「やはりテレビなんてありません。守衛室のテレビは断わられました。持ち出し禁止だそうです。どうせ彼らが見てるんだろうけど」

「テレビを見るんですか」

「情報はどうやって仕入れるんだ。緊急対策室で聞いてくるのか。教えてはくれないぞ。突っ立ってると、名指しで邪魔者扱いされる」

「パソコンでテレビは見られます」

 森嶋は近くのパソコンを立ち上げて、持っていたワンセグチューナーをセットした。

 部屋中の者が寄ってきた。

 どこのチャンネルも地震特番に切り替わっている。

〈渋谷の音楽ホールの天井が落ちて死者8名、重軽傷者29名が出ています。今回の地震は東京直下のため、さらに震源が地下20キロと比較的浅かったために震度7を記録したところもあります〉

 ヘルメットを被った男性アナウンサーが、音楽ホールの前でマイクを持ってしゃべっている。

 画面には音楽ホールの前で横たわったり座り込んでいる怪我人と、茫然とした表情で立ち尽くす観客、そして駆けつけた消防車、救急車、消防隊員たちが映し出されている。

 画面が渋谷駅に変わった。駅前の交差点は駅に詰めかけた人で埋め尽くされていた。

 町を走っている車は見当たらない。余震を恐れて運転を控えているのと、車道にまで溢れだした歩行者の映像が、ソーシャルメディアやYouTubeにより配信されているからだろう。テレビやラジオでも、車は路肩に停めて歩くように言っている。

 渋谷駅はすでに入口にはシャッターが下ろされ、貼り紙がされている。駅員の姿は見えない。

〈現在、JR、私鉄、地下鉄、バスなどすべての公共交通は地震の影響により運転を見合わせております。振り替え輸送も行なわれておりません。復旧の目処はたっておりません。この近くの避難場所としては渋谷中町小学校、中学校、さらに公会堂があります。無理して帰宅を考えるより、最寄りの避難所に行ってください〉

 アナウンサーが貼り紙を声に出して読み上げた。

〈現在、都内のすべての交通は止まっています。バスも同様です。駅で待っても今日中の復旧の見込みはありません。最寄りの避難所に行ってください。今夜はそこに泊ってください。徒歩による無理な帰宅はやめましょう。避難所、会社に行って今夜はすごしてください〉

 アナウンサーがテレビに向かって繰り返し呼びかけている。

〈それではいったんマイクをスタジオにお返しします〉