研究には「信頼性の高い」ものとそうでないものがある

 医学の進歩は枚挙にいとまがない。有効なワクチンの開発もそのひとつだ。現在、世界には4億人のB型肝炎持続感染者がいる。B型肝炎は肝硬変や肝不全の原因となるほか、世界のがんによる死因の第3位を占める肝がんに進行するおそれがある。

 B型肝炎ワクチンは、ある意味では世界初のがん予防ワクチンといっていいだろう。乳幼児のB型肝炎ワクチン接種を20年前に義務化した台湾では、小児原発性肝がんの死亡率が75%も低下した。

 がんや冠動脈性心疾患、肥満、糖尿病、アルツハイマー病、その他の慢性疾患についても、新しい知見が目をみはるほどのペースで明らかになっている。画期的な発見や治療法は、優れた共同研究から生まれることもあれば、偶然の魔法によって明らかになることもある。たとえばペニシリンやヘリコバクター・ピロリ菌は、そうした幸運な偶然から発見された。

 科学的研究にもいろいろあるが、なかでも 「ランダム化・二重盲検・プラセボ対照試験」が、最も学術的価値が高いとされる。得られた結果は信頼性が高く、権威ある医学雑誌に掲載されることも多い。

 一方で、適切に実施された大規模な「疫学的分析」からも、すばらしい洞察が得られることがある。疫学とは、発生率や分布などのパターンを調べることによって、特定の集団における健康や病気の原因を探る学問をいう。

 適切に行われた疫学研究は、主要な疾患の危険因子や、ときには原因の手がかりさえを明らかにする。その結果をもとに政策決定が下され、実行されれば、多くの人の健康が守られる。

 たとえば1948年に始まった「フラミンガム心臓研究」は、そうした疫学研究のなかでも最も有名なもののひとつだ。もとはマサチューセッツ州フラミンガムの30~62歳の住民から無作為に選ばれた5209人を対象に開始され、いまではその孫の世代まで含む長期の研究で、喫煙や食事、運動、肥満、一般的な治療薬(アスピリンなど)が健康と病気に与える影響や、心臓疾患に関する貴重な知見を提供している。このデータをもとに、これまで1000を超える医学論文が発表されている。