今、顧客減、会員減に悩んでいる企業は多い。中でも定額課金=サブスクリプションモデルで利益を上げている場合には、会員取得ばかりに目を向けて、離れてしまう顧客には、なかなか有効な手を打てない現状だ。
元WOWOWグループ初の女性取締役であり、顧客を引き留める「リテンションマーケティング」で実績を上げた大坂祐希枝氏が初の著書である『売上の8割を占める 優良顧客を逃さない方法 利益を伸ばすリテンションマーケティング入門』を発売。
この連載では、この著書から一部抜粋してご紹介する。
新規獲得とリテンションは、
同じ部署で行うべきか?
この連載の最初から読むにはコチラから!
前々回、前回までは、リテンション施策が上手くいき始めたのを見た、社長がついに「無料施策」(安売りして加入者を集めること)をやめる、と宣言したという話をしました。
それと同時に社長は、出ていく人を引き留めるだけでなく、加入の「入口」を重視し「優良顧客になりそうな潜在顧客」を優先的に引き込むという「入口」も重要視するという考え方で、加入から解約防止までの一連の施策を新設のマーケティング局で行うという方針をぶち上げました。
その社長の方針を受け、私は今までの解約防止局の局長から、新規顧客の獲得から解約防止までの全体を掌握するマーケティング局長に任命されました。
マーケティング局長として、加入獲得から解約防止を一連の流れとしてとらえよとの指示を受け、私は、加入直後の方から長期加入者まで、すべての加入者の「カスタマージャーニー」を知る必要に迫られました。
「カスタマージャーニー」とは、一般的には顧客が購買にいたるまでのプロセスを指します。しかし私たちは、加入までの状況(加入ルート、キャンペーン、加入動機)から、加入後に視聴した番組、プレゼント応募やカスタマーセンターへの問合せの有無まで、WOWOWとの関わりの全体を時系列でみたものを「WOWOWのカスタマージャーニー」としたいと考えていました。
しかし、私たちが使用可能だったのは、開局当初からWOWOWが顧客に聞いていた、氏名、生年月日、住所、電話番号、支払い口座のみ。
2005年からは加入動機となった番組を聞くようになりましたが、それでも個別の顧客のデータがとれているのは、加入時と、解約時だけ。顧客の状態を「ジャーニー」として連続して把握する視点や仕組みはありませんでした。
私たちがそれまで取り組んできた解約抑止策は、解約数の減少に一定の効果を発揮していましたが、本来大切なのは、加入後どの時期にもWOWOWに親しみ、評価していただき、契約を続けていただくこと。
私たちは、WOWOWの「カスタマージャーニー」、つまり加入獲得(アクイジション)から解約防止(リテンション)の一連の流れを顧客視点で把握したいと考えましたが、それには「使えるデータ」が決定的に不足していました。