トヨタ生産方式を形だけ導入しようとしても成功しない。うまく機能させるには、カイゼン哲学を共有し、不断の努力を続けなければならない。そして、その背景には、トヨタに脈々と受け継がれる労使間、社員間の徹底した対話文化がある。トヨタ労組の書記長や自動車総連の会長などの要職を長年務め、『トヨタの話し合い』を上梓した加藤裕治弁護士に、トヨタの現場の情熱や創意工夫の秘密を聞く。

カイゼン哲学があれば不正は起こらない

会社の「不正」は
なぜ起こるのか

 昨今、さまざまな企業で不正や不祥事が起きている。

 社員が不正に手を染めるのは、誤りを正すのではなく、それを隠して自分を守ろうとする気持ちが強く働くからであり、そうしたネガティブな気持ちが湧くのは、社内の風土や職場の空気に要因があるからだ。

「上司に叱られるのはイヤだなあ。言わなきゃわからないか」
「このミスで責任を取らされたら、もう出世できない」
「この作業、ちょっとくらい省いても大丈夫だろ。ラインには影響しないし」

 こんな悪魔の声に誘われて、やってはいけないことをやってしまう。要は、いつでも上司の顔色を窺いながら仕事をしているから、ルールに反していたり、ミスをしても上司に報告しない。やってはいけない不正行為を陰で行ってしまう。「これはまずいかな」と思いながらも、手を止めることができずにやってしまう……。

 出来心でも何でも、いったん不正に手を染めてしまうと、事実関係の辻褄を合わせるために、さらなる不正や虚偽の報告を重ねていくことになる。そして、気がつけば、取り返しのつかない結果を招き、会社に多大な損害を与えてしまう。

 手を染めた当人も、職場を追われるなど、自分の人生に汚点を残すことになる。